Jをめぐる冒険BACK NUMBER
好ゲームは決着後も“余韻”を残す。
天皇杯決勝、G大阪と山形の好感。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byYohei Osada/AFLO SPORT
posted2014/12/15 12:00
敗れた山形の石崎信弘監督は「試合の入り方は悪くなかった。(ガンバには)J2にはない個の力があった」とコメントしている。
「90分間100%の力で戦ったので、悔いはない」
クラブとしての初タイトル獲得はならなかった。だが、山形にとってこの90分間は、来シーズンのJ1を戦う上で得るものばかりだったに違いない。通用したこと、しないこと、悔しさも含めて――。
「ボールを回されることもありましたけど、プレスも掛けられたし、高い位置でボールを奪って、シュートも打てた。あとはしっかり決める、失点しない、そういうところになってくると思います。僕らは90分間100パーセントの力で戦ったので、悔いはないです」
そう語ったのは左ストッパーを務めた34歳の石川だ。記者の質問にうなずきながら咀嚼し、自分の気持ちをしっかりと言葉に変えていく。その表情にはときおり悔しさを滲ませていたが、一方で、清々しさも感じられた。
「勝てない時期もありましたけど、監督もどっしりしていたし、1年間ブレずに同じことをやり抜けた。山形はこの1年、本当に充実して戦えたと思うので、来年はこれをさらに高めたい。2回目のJ1ですからね。どれだけできるのか楽しみ。怖いとかはないです。J1でやるのは楽しいですから」
石川の言葉は、多くの選手たちに共通する思いだったことだろう。
細部を徹底的に詰めてくる、ガンバの強さ。
この日の山形がグッドルーザーだったのは間違いない。だが、山形がグッドルーザーたり得たのは、G大阪がJ1チャンピオンに相応しい強さを示してくれたからでもある。
宇佐美とパトリックの破壊力。遠藤と今野泰幸のゲームをコントロールする力……。もっとも、改めてこの日、感心させられたのは、細部に対しての徹底ぶりだ。
例えば、22分。山形のコーナーキックからのカウンターで宇佐美が持ち込み、パトリックがゴールを決めた2点目のシーン。パトリックがシュートを打つ瞬間、倉田秋が長い距離を走ってパトリックを追い越し、DFのマークを外している。
センターバックのふたりが林に引き付けられて決定機を与えた前述の60分の場面でも、危険を察知した藤春がすかさずディエゴのマークについて自由を奪った。
ハードワークや守備における連係、約束事の徹底にぬかりはない。しかもそれを、レギュラーシーズンで控えに甘んじた選手がしっかりとこなす。倉田と藤春は、負傷した阿部浩之と米倉恒貴に代わって、この決勝でスタメン起用された選手たちである。
「うちは誰が試合に出ても強さを維持できる」「(長谷川健太)監督は修正ポイントを整理して、徹底的に潰してくれる」
11月のナビスコカップ決勝を控えていた頃、今野はそんな風に語っていた。その言葉が改めて納得できた試合だった。