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ハミルトンとロズベルグの小さな差。
6年ぶり戴冠の決め手は「タイヤ」?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2014/11/30 10:40
チャンピオンを決め、歓喜の表情のハミルトン。2013年にマクラーレンから移籍した際はその選択に賛否両論だったが、見事2シーズン目での戴冠となった。
ハミルトンとロズベルグの差は、タイヤの使い方?
しかし、それではなぜロズベルグと彼のレースエンジニアは、ハミルトンと同じアプローチを取らなかったのだろうか。メルセデスAMGでビークル・エンジニアリングのチーフを務めているロイック・セラは、次のように分析する。
「2人は、ドライビングスタイルもマシンのセットアップも非常に似ている。レース戦略も今シーズンは2人に平等な権利を与えていたので、戦い方もほぼ同じだった。だから、ロズベルグがレースよりも予選を重視していたわけではない。ハミルトンがロズベルグよりもレースで安定していたように見えたのは、彼の方がレースにおけるタイヤの使い方が賢かったからだと思う」
グリップ力が落ちたタイミングに仕掛けたハミルトン。
2010年にメルセデスAMGに加入する前はミシュランに所属。セラはいわば、タイヤのエキスパートである。そのセラが秀逸だと評したハミルトンのレースは、第17戦アメリカGPだった。
レースはPPからロズベルグが先頭に立ったが、中盤までずっと後方につけていたハミルトンが最終的には逆転に成功した。その展開の中に、ハミルトンの速さの秘密が隠されていたというのだ。
通常は前を走るクルマのほうがダウンフォースが安定して出るので、タイヤに優しい走行となる。ところがハミルトンは、ロズベルグの後方でタイヤを温存して走行していた。
「ニコは前半飛ばしたんだ。ハミルトンがタイヤのグリップ力があるスタート直後とタイヤ交換直後にDRSを使って勝負してくると予想していたからね。だけどハミルトンは、勝負どころをタイヤのグリップ力が落ちる各スティントの後半だと決めていた。そのため、ニコは第2スティントの後半にタイヤが厳しくなり、ルイスに逆転を許してしまった」
ハミルトンは言う。
「タイヤの使い方に関しては、初めてタイトルを獲った2008年以降ずっと試行錯誤してきた」