ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
日本OPのギャラリーを3倍にした男。
アダム・スコット狂想曲の「裏側」。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKyodo News
posted2014/11/04 10:30
日本オープンの観客数を昨年の3倍にしたアダム・スコット。世界との接点は、日本ゴルフが発展するうえでも絶対に無視できないファクターだ。
「世界のゴルフはシンプルになってきているのかなと」
田村の長男が中学1年生になった昨年の春、テレビでマスターズを観戦して「僕も(優勝した)アダム・スコットみたいになりたい。ゴルフを教えてくれ」と言っていたという。しかし1年数カ月後にまさか、その選手とプレーすることになるとは……。
「夢にも思っていなかった。メジャーに行かないと一緒に回れない人。世界のトップ選手と回れたのは、棺桶に持って行けますね」と、巡り合わせに感謝した。
海外のトップツアーでの経験に乏しい2人のプロの心を掴んだのが、スコットのスマートなプレースタイルである。
「変に小細工をしない。大きく曲げたりもしない。真っ直ぐ飛ばして、簡単にゴルフするなあという印象だった。僕らだったらいろんなことを考えてしまうんだろうけど」
そう語ったのは塩見。弾道はビックリするくらい高い。けれど、そこに初めて見るような、突拍子もない技術はなかった。
田村も「何か特別なものを見たという感じはなかった」と言った。
「クラブとボールの進化もあって、ボールをあんまり曲げてどうのこうの、というのはナンセンスなゴルフになってくるのかもしれない。世界のゴルフはシンプルになってきているのかなと。日本の選手の方が、なんだかんだ言って、考えすぎている人が多いのかもしれないね」
ボールを遠くへ飛ばし、ピンを直線的に攻める。「世界」との差は頭の中にあるものとは別物だった。
「スゴイ数だ。あなたのギャラリーはたくさんいますね」
1カ月のブランク明けの試合とあってか、上位を脅かす存在とはならなかったが、スコットが周囲を魅了し続けたのは、ロープの外まで溢れ出る豊かな人間性だったのだろう。
不満の残るプレーが続いても、声援にキュッと口角を上げて応え、快くサインにも応じた。ラウンド中「スゴイ数だ。あなたのギャラリーはたくさんいますねぇ」なんて、イタズラっぽくジョークを飛ばされた田村も「世界のトップは違うよね」と、その気さくで、飾らない人柄に感服するばかりだった。