ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
男子ゴルフ界、30代の逆襲が始まる。
岩田寛、竹谷佳孝が“捨てた”モノ。
posted2014/11/12 10:40
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
快挙は間違いなく、手の届くところにあった。
上海郊外で行われたHSBCチャンピオンズは、年に4度の世界選手権シリーズ(WGC)最終戦。4大メジャーに次ぐ規模と価値で行われ、勝者には賞金1億数千万円と世界各ツアーでの複数年シードが付与されるビッグイベントである。
世界ランカーたちがタイトル獲得に牙をむく中、岩田寛は鉄仮面のごとく表情を変えず、優勝争いに加わった。日本人がWGCで最終日最終組をプレーするのは2011年ブリヂストン招待、石川遼以来のことだった。
メジャーチャンピオンに囲まれても、33歳の岩田は最後まで争いの中心にいた。
首位に1打差の2位から出ると、前半こそ2ボギーと振るわなかったが、バックナインで挽回。17番で5メートル弱のパーパットを沈め、18番では決めればプレーオフという3メートル強のバーディパットを打った。ボールはカップの左を通過し、日本勢初制覇を惜しくも逃したが、米ツアー出場4試合目ながら、3位という成績を残したのである。
美しいスイングに定評はあったが、精神面に課題が。
9月のフジサンケイクラシックで悲願の初勝利を挙げた岩田は、「寡黙」というよりは、よく吟味して言葉を発する人柄だ。
秘めたものは熱い。東日本大震災の直後には、地方トーナメントを渡り歩き、故郷仙台のために義援金を稼いだ。豊富な練習に費やす時期や場所は選ばない。
「テレビでトービヨン・オルセン(デンマーク出身)の練習を見て、僕は冬の仙台でも練習するようになったんです。オルセンは雪の中、ポツンとある小屋から打っていた。(一面)真っ白だから、どこに打っているのか分からないじゃないですか。でも、あんな寒い中でも打ってるんだなあと思った」
美しいスイングとショートゲームに定評があったが、精神面が問題とされてきた。平静にプレーしているようで「キレやすい」。だから、未熟なハートの鍛錬をひたすらに続けてきた。それはこの快挙が迫った試合でも同じだった。