ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
日本OPのギャラリーを3倍にした男。
アダム・スコット狂想曲の「裏側」。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKyodo News
posted2014/11/04 10:30
日本オープンの観客数を昨年の3倍にしたアダム・スコット。世界との接点は、日本ゴルフが発展するうえでも絶対に無視できないファクターだ。
同組でプレーする経験を得た2人の“新顔”。
そして同じだけ、いやそれ以上の興奮を、一緒にフェアウェイを歩いた日本人選手が味わっていたのは当然であろう。
予選2日間をともにした藤田寛之は、2年前の全米オープン以来の同組だったが、2サムプレーとなる決勝ラウンドでは、日本ツアーの注目の“新顔”2人が一緒になった。
3日目にプレーした塩見好輝は、前日の夕方から落ち着かなかった。第2ラウンドを終えてスコットと同じイーブンパー19位。スコアの良い選手が、より後ろの組に入るのがルールとなっているゴルフトーナメントは、複数の選手が同スコアの場合、アテスト小屋でスコアカードを提出した順番で次のラウンドの組み合わせが決まる。
「50%の確率でアダムと一緒になると思って、そわそわと……」
スマートフォンで大会のホームページを何度もリロードして、いよいよ翌日のペアが決まるという時、「(午後)5時半くらいから、いろんな人からメールが来た」という。帯同したプロキャディのもとには、米国滞在中の松山英樹のキャディからもメッセージが届いたという。
塩見好輝と田村尚之、という対照的な2人。
一晩かけた心の準備の甲斐もあって、塩見は序盤から堂々とプレーした。甘いマスクの実質的なプロ2年生は、東北福祉大で藤本佳則からキャプテンの座を託され、翌年にはそれを松山に引き継いだ経歴を持つ。彼らに比べればまだ実績は見劣りするが、早くも来年の賞金シード獲得が狙える位置にいる。
スコット見たさに集結したギャラリーからも大声援を浴び「気持ちよかった。途中からは『勉強会や』と思って回りました。日本にいてはこういう経験ができない。世界基準を肌で感じられた」と異空間を目いっぱい楽しんだ。
狂騒がピークに達した最終日に、この幸運を手にしたのは世界的に見ても異色のプレーヤー、昨夏にプロ転向したシニア選手である。
田村尚之は日本を代表する社会人トップアマ、サラリーマンゴルファーとしてならしていたが、周囲の勧めもあって49歳で一念発起した。