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『マネーボール』より「機動破壊」!?
ロイヤルズが青木に与えた自由裁量。
posted2014/10/03 16:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
経験上、日本の高校野球とメジャーリーグを比較したり、併記したりするのは意味がないと思っているのだが、カンザスシティ・ロイヤルズのワイルドカードでの戦いぶりを見て、今年の夏の甲子園を思い出した。
「機動破壊」
そう、健大高崎(群馬)を連想したのだ。
情け容赦のない盗塁によって、得点をプロデュースしていく……。
ロイヤルズはオークランド・アスレティックス相手に、7個の盗塁を記録した。特筆すべきは7人の選手がマークしたことである(青木、エスコバー、ケイン、ゴア、ゴードン、ダイソン、コロン)。
8回裏の攻撃が始まる時点で、スコアは7-3。ひっくり返す可能性は低くなっていたが、スピーディな選手たちが次々に盗塁を決め、流れを変えた。
『マネーボール』に反し、盗塁、犠打を多用。
もうひとつ印象的だったのは、ヨースト監督が犠牲バントを多用したことだ。
アスレティックス戦で決めたバントは4つ。ロイヤルズがレギュラーシーズンの9月ひと月で記録した犠牲バントは5個だから、ふだんとは違った作戦を採ったことが分かる。
実はこのヨースト監督の采配が、アメリカの野球ブロガーの間で大いに話題になっているのだ。
ブロガーの多くは『マネーボール』(いうまでもなく、アスレティックスが舞台のノンフィクション)の信奉者で、盗塁、そして犠牲バントを極端に嫌う。
盗塁はリスクの高いプレーで、犠牲バントにいたってはフリーで(ただで)相手にアウトを献上しているもの、という考え方が支配的だからだ。
しかし、ロイヤルズは1点を追う9回、代打からヒットが生まれると、代走にダイソンを起用。犠牲バントで一死二塁とした後、ダイソンが三盗に成功し、ここで青木が犠飛で同点に追いついた。
代打、代走、犠打に盗塁、そして犠飛。
まさに策を尽くして1点をもぎ取った感じで、改めて盗塁や犠打の有効性を見せつける結果となった。
やはり、レギュラーシーズンとポストシーズンの戦い方は違う。身体能力の高い選手を集めたロイヤルズの「機動破壊」は大いなる戦果を上げたのである。