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かち上げよりも、学習能力が怖い。
大砂嵐が察知した白鵬の持つ「間」。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2014/07/31 10:40
6日目、日馬富士を引き落としで破り、前日の鶴竜に続き2日連続の金星。ラマダンによる空腹にもめげずに奮闘したが、負け越しで三役昇進は逃して悔しがった。
かち上げの効果は、ダメージだけではない。
かち上げの効果とは、相手に与える実質的なダメージのことではない。確かにまともにのど元やあごに入れば相手の意識が飛んでしまうような威力がある。だが、大砂嵐が名古屋で、かち上げそのものでもぎ取った勝利はそう多くはない。稀勢の里戦はかち上げは入ったが、勝負には負けた。照ノ富士との一番もかち上げをヒットさせることには成功したが、そのあとの突っ張り合戦では後れを取り、勝つことができなかった。もともとかち上げは序盤の戦術であって決め技ではない。
ただ、かち上げによる直接的な勝利は少なくても、その効果は実感できたのではないか。効果とはかち上げが「あるぞ、来るぞ」という心理的効果だ。相手がそう考え、恐怖を抱くことで生じる優勢。
2人の横綱の頭に刷り込まれた「イメージ」。
横綱を2日つづけて破った取り組みがそうだった。前日に千代鳳がKOされたのを見て、鶴竜は明らかにかち上げを警戒していた。まともに食わないことをともかく優先させ、立ち合いの変化に出た。だが、大砂嵐はそれにうまく対応し、あわてずにいい体勢を作り、初金星につなげた。
日馬富士も大砂嵐の右からのかち上げを意識し、左を固めることに神経を集中させているように見えた。そのため動きが硬くなり、つけ込まれて敗れた。
金星は「あるぞ、来るぞ」がもたらしたイメージの勝利だったといってもよい。おそらくその効果を、大砂嵐は場所中に学習したのではないだろうか。序盤はすべて「KO勝ち」をねらうような勢いだったが、後半はかち上げも見せるが、それにこだわらずに、よい体勢を作ることにも気を配っているように見えた。先場所までは突き、押しが中心だったが、今場所は組んでも力を発揮できるようになった。もう少し四つの形が練れてきて、足が浮かなくなれば、三役に定着するのも確実だろう。