REVERSE ANGLEBACK NUMBER
かち上げよりも、学習能力が怖い。
大砂嵐が察知した白鵬の持つ「間」。
posted2014/07/31 10:40
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
KYODO
名古屋場所は白鵬の優勝というおなじみの決着になったが、その割には見どころが多かった。カド番の大関琴奨菊が最後まで優勝争いにからむと予想した人はほとんどいなかったろうし、万年関脇の豪栄道が大関昇進を確実にするところまで星を伸ばしたのにも驚いた。
だが、そのふたり以上に名古屋を盛り上げたのはエジプト出身の大砂嵐、いやその大砂嵐がくり出すかち上げではなかったか。かち上げは腕を使って相手ののど元やあごを下から突き上げる立ち合いの戦術で、おもに相手の上体を浮かせて自分が下に入り込み、いい体勢を作るねらいで用いられる。ところが大砂嵐のそれは、いい体勢に持ち込む戦術というよりは一発で相手を倒すような威力を秘めた決め技になっている。すでに5月の夏場所では遠藤のあごにきれいにヒットさせて土俵に沈め、遠藤びいきの女性ファンを絶叫させた。
鶴竜、日馬富士に連勝して今場所の焦点に。
今場所も初日の玉鷲にかち上げを出して出足を止め、左フックみたいな張り手で土俵にはわせると、連日のようにかち上げをくり出して土俵を沸かせた。中でも一気に注目を集めたのは、3日目の稀勢の里戦だ。大関の顔面にまともにかち上げをヒットさせ、あわやと思わせた。その後、盛り返した大関に勝ちは譲ったが、勝ち名乗りを受ける大関の顔面から鼻血が流れていたことで、「大砂嵐のかち上げ、恐るべし」の空気が広まった。
翌4日目には千代鳳を実質かち上げでKOし、その威力を見せつけた。そして5日目、6日目と鶴竜、日馬富士の横綱に連勝して、序盤の場所の焦点になった。
だが、その後は思ったほど勝ち星が伸びず、15日間を終えて、結局7勝8敗とひとつの負け越しで場所を終えた。前頭三枚目ですべての大関、横綱と顔が合うきびしい番付ということもあって、この数字はやむを得ない結果だったかもしれない。ただ、大砂嵐にとっては、かち上げの効果を実感できた、収穫の多い場所だったのではないか。