詳説日本野球研究BACK NUMBER
田中将大の故障とタイブレーク導入。
「球数制限」と「選手層」の狭間で。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byAFLO
posted2014/07/21 10:30
現地7月9日にオールスター辞退、全治6週間の診断が下っているヤンキース・田中将大。はからずも直後に高野連によるタイブレークのアンケート計画が判明した。
「壊れない投球フォーム」を教えられるか。
私立が6校、公立が5校、1人の投手で1試合を乗り切るのに私立も公立もないと言わんばかりの完投ラッシュではないか。私自身は「完投してこそエース」の風潮にアレルギーはない。1年くらい前、出演したとあるテレビ番組でも投手の故障が問題になり、このときも「球数よりも投げ方のほうが故障に大きく関係していると思う」と言った。
これを聞いた旧知の大学の監督は「私もそう思う」と同意してくれたあと、「1球で肩・ヒジが壊れるピッチャーがいれば、200球投げても壊れないピッチャーがいる」と言った。200球投げても壊れない投球フォームをごく普通の公立高校の監督が教えられるか、という問題が頭をもたげてくるが、近年緊密化している監督同士の横の連携が技術指導の限界を突破してくれるはずと、希望的観測を抱いている。
投球フォームについて言えば、肩・ヒジに負担をかけない投げ方が理想的である。ステップ幅を広く取って、下半身→上半身の順に体を移動させていく。こういう体重移動ができる投手は前肩が早く開かない。右投手なら左の肩越しに打者を見るようなフォームと言い換えてもいい。典型的なのがダルビッシュであり、田中将大にもそういうフォームのよさがある。
それでも田中はヒジを故障しているのだから、登板間隔は考え直したほうがいい、と言われれば私もそう思う。前で球数制限や登板制限に懐疑的だったのは、あくまでも有力校と無名校の不公平感を憂慮したからだ。健全なパフォーマンスの持続を優先順位のトップに置くならば、もちろん球数制限も登板制限も実施したほうがいい。視点を変えれば、日本高等学校野球連盟は「球数制限・登板制限」と「選手層」という矛盾を抱えながら、どちらにも舵を切れない迷いの中にいると言ってもいい。
いいフォームで投げる夏の注目選手たち。
この夏に見た選手は総じていい投球フォームをしていた。芝高の田中は東京大学への進学を志望する秀才型の選手でありながら、昨年秋の東京大会では日大二高を破ってベスト16に進出する原動力になっている。
5安打、1失点に抑えたこの日大二高戦は「下半身→上半身」という理想的な体重移動こそあったが、テークバックでヒジを小さくまとめるタイミングが早すぎて、腕の振りが窮屈に見えた。今でもテークバックは小さいが、昨年の押し出すリリースが腕を振り下ろすリリースに変わり、印象が一変した。