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ラキティッチ>セスクである理由。
“エンリケバルサ”が描く未来図。
posted2014/06/18 10:30
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Takuya Sugiyama/JMPA
ルイス・エンリケを新監督に迎えて大幅なチーム刷新を進めているバルセロナが、大きな決断を下した。ワールドカップ開幕戦当日の6月12日に発表された、セスク・ファブレガスのチェルシー移籍だ。
移籍金は固定額3300万ユーロ+一定の出場試合数を満たした際に払われるインセンティブ300万ユーロ。これは3年前、バルサがアーセナルに支払った移籍金の3600万ユーロとほぼ同額であり、近年選手の売買で大幅な赤字を計上してきたことを考えれば上々の取引だと言える。
既に既定路線だったこともあり、彼の移籍はサプライズではなかった。だが3年越しの交渉を経てようやく呼び戻したカンテラーノを、こうも簡単に売り渡してしまったことに対し、反論の声をあげるファンやメディアの声がほぼ皆無だったことには驚かされた。
確かにセスクは3年前に復帰した時から、常に「クラブで1試合も出場せず、自ら出て行った選手を買い戻すのに大金を払うのはいかがなものか」と考える一部ソシオの厳しい目にさらされてきた。
ついになれなかった「シャビの後継者」。
しかもシャビの後継者となるべく戻ってきた彼は、皮肉なことにそのシャビが健在のためにチームの中心となることが叶わず、時にシャビ、時にイニエスタ、時にメッシの代役としてプレーしながら結果を出さなければならなかった。
それでも2013-'14シーズンはチーム内で4番目に長い出場時間を重ね、MF陣の中で最多の得点数とアシスト数を積み重ねたのだが、結局彼に向けられた疑惑の目が変わることはなかった。チームが息切れしたシーズン終盤、カンプノウのスタンドから背番号4にブーイングが向けられたのは一度や二度のことではなかった。
「言うべきことは何もない。自分のバルサでの時代は終わったと決心する時が来たまでさ」
先日会見にて移籍の理由を問われたセスクはそう答えていたが、これまで何度も「バルサは自分の家。ここでキャリアを全うしたい」と言ってきた彼が移籍を決断するまでにはかなりの葛藤があったに違いない。