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チアゴ・シウバが語る母国でのW杯。
「マラカナンは家のようなものだ」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2014/06/10 10:40
ブラジルでのコンフェデ杯で優勝し、失墜していた国民の支持を一挙に回復したセレソン。現在のセレソンの骨格は、チアゴ・シウバ率いる世界最強の守備陣だ。
コンフェデで震えた、マラカナンのブラジル国歌。
――たしかにコンフェデレーションズカップは、プレーを超えてブラジル国民の感情に訴えかけました。去年の6月にいったい何が起こったのでしょうか?
「彼らの気持ちは本当に強かった。スタジアムに入るときにあれほど身震いしたことは、僕もいまだかつてなかった。特に彼らがブラジル国歌を歌っているときは……。
マラカナンの決勝では僕も感極まった。僕はこれまでに何度もあそこでプレーしている。マラカナンは僕にとって家のようなものだ。リオに生まれ、リオで育った生粋のカリオカだからね。決勝には家族全員がスタジアムにやってきた。あの晩の気持ちの高ぶりは、きっと一生忘れないだろう」
――改修後のマラカナンは7万3500人に収容人員が減りましたが、それでも特別な力を与えてくれますか?
「(しばらく考えて)よくわからないな。多くの歴史を刻んだスタジアムであるのは間違いないけど。ブラジルがウルグアイに敗れたワールドカップ1950年大会から、神話は始まったのだと思う。この“マラカナンの悲劇”は、ブラジル国民の心に大きな刻印を刻んだ。
僕が思うにマラカナンは、誰もがいつの日にかそのピッチに立ちたいと夢見るスタジアムだ。ヨーロッパのスタジアムも良く知っているけど、マラカナンは別だ。決勝のスペインの選手たちの態度を見ていても、それはよくわかった」
国内で広がるW杯費用への抗議活動について。
――ところでワールドカップに対しては、ここまで費用をかけ過ぎた(スタジアムの建設や改修などでおよそ150億ユーロをすでに支出)という民衆の批判があります。ブラジル代表は、彼ら民衆の抗議活動をどう捉えているのでしょうか?
「正直なところ最初は彼らが何に対して抗議しているのか、よく理解できていなかった。だがすぐに街角で何が起こっているのか明らかになり、ブラジル全土で高まっている民衆の運動に親近感を覚えるようになった。
なぜだかわかるかい。僕らもブラジルがいい国になって欲しいからさ。ただチームの中では、この特殊な雰囲気に惑わされてはいけないと選手同士で話し合っている。というのもブラジルという国を良くするために僕らにできるのは、最高のチームを作って大会に優勝すること以外にはないからだ。監督のルイス・フェリペ・スコラーリも同じことを言っている。
現状ではこの問題にコメントするのは難しい。僕らは間近に迫った大会に向けて集中しなければならないからだ。それでもフェリポンは、グループ内部の会話はすべて自由にしているし、国を揺るがす運動について思うことを話せる雰囲気を作りあげた。だから誰もが思いのままを喋っているよ。試合の合間に議論をしている。いいことだと思うよ。そして試合の前日になると、来るべき戦いに100%集中する。その繰り返しさ」