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アンチェロッティ、3度目のCL優勝へ。
彼が現役最高の監督と言える理由。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2014/05/23 12:30
過去に所属したクラブで選手とトラブルを起こしたことがほとんどなく、現在もレアルで選手たちに慕われているアンチェロッティ。
革命家ではなく「郷に入れば郷に従え」。
とはいえ、アンチェロッティを戦術家でないと見るのは正確さを欠く。
たしかに彼は、戦術のパラダイムを転換した革命家ではなかったが、そこにこそ彼の強みがある。サッキやクライフのように、自分の戦術に強いこだわりを持つ監督は、往々にしてドグマに陥り、発想が硬直化してしまうパターンが多い。ユナイテッドの監督に就任したファンハールなども、過去にはこの轍を踏んできた。
だがアンチェロッティは、「郷に入れば郷に従え」の諺の通り、様々な戦術を時と場合に応じて使い分ける。たとえばパルマ時代には、サッキ流の4-4-2を踏襲。ユベントスではインザーギとデルピエロの下に、ジダンを置く3-4-1-2、ミランではクリスマスツリーと呼ばれる4-3-2-1などを採用している。続くチェルシーでは4-3-3を、PSGでは4-3-1-2や4-2-3-1、4-3-3などをテストした後、4-4-2に近いフォーメーションに落ち着いた。
CLのバイエルン戦で見せた、驚異的な戦術の冴え。
しかもアンチェロッティは、クラブごとにシステムを使い分けるだけでなく、試合ごとにも手を打ってきた。その種の戦術的な采配が最も冴えたのが、今シーズンのCL準決勝、バイエルン戦である。
バイエルンを迎えるに当たり、アンチェロッティはシステムを4-4-2に変更。中盤をタイトにして敵のポゼッションサッカーを封じ込めつつ、ロナウドやベイルといった武器を最大現に利用してカウンターを展開した。
加えてアンチェロッティは、攻守において4-4-2と4-3-3を融合させることも行なっている。ベイルは守備の局面では、MFのラインに戻り守備のラインを構成したが、カウンターに転じるや否や、4-3-3の「矢」としても機能した。
ベイルからベンゼマにロングボールが渡り、ベンゼマが中央を上がってきたベイルに再びパス。ベイルがそのままゴールに向けてドリブルを行ない、DFの注意をひきつけた上で、ロナウドのゴールを演出したセカンドレグの3点目などは圧巻だった。
ちなみにアンチェロッティは、カウンターに徹した理由を説明している。
「ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノといった選手がいる場合には、ポゼッション型のサッカーをするのは難しくなる。我々はスペースを探し出し、素早くボールを前に運ばなければならない」