オフサイド・トリップBACK NUMBER
アンチェロッティ、3度目のCL優勝へ。
彼が現役最高の監督と言える理由。
posted2014/05/23 12:30
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
AFLO
ヨーロッパのクラブのスタジアムには、栄光をもたらした名将が必ず祀られている。
マンチェスター・ユナイテッドのオールド・トラッフォードには、マット・バズビーとアレックス・ファーガソンの銅像。アーセナルのエミレーツ・スタジアムでは、ハーバート・チャップマンとアーセン・ベンゲルの胸像がVIP用のエントランスに並んでいる。リバプールのアンフィールドなら、やはりビル・シャンクリー・ゲート(門)が有名だ。
同じことは大陸側のクラブにも当てはまる。レアル・マドリーのサンティアゴ・ベルナベウは、かつての会長の名前に由来するし、ディナモ・キエフのロバノフスキーの銅像も、独特の郷愁をかき立てる。
これらのモニュメントには、しかるべき理由とドラマがある。不明なのは、フルアムのクレイブン・コテージから撤去されたマイケル・ジャクソンの銅像ぐらいだ。
サッカー界、最高の監督は誰か。
では、数多いる監督の中で一番優れていたのは誰か?
少なくともヨーロッパの大会における戦績に限定するなら、答えははっきりしている。その人物は上に名を挙げた監督でもなければ、ブライアン・クラフやグアルディオラ、モウリーニョ、クライフ、サッキ、リッピ、カペッロ、エレニオ・エレーラでもない。驚くなかれ、リバプールを'74年から'83年にかけて率いた、ボブ・ペイズリーなのである。
チャンピオンズカップ時代も含めれば、ペイズリーはヨーロッパの王座を3度手にしている。これに比肩する実績を持つ監督は存在しない。ユナイテッドを27年間指揮し、サッカー界の頂点に立つとされるファーガソンでさえ、優勝と準優勝が2回ずつで、ランキング的にはミゲル・ムニョスと同率の2位。名将の誉れ高いモウリーニョやグアルディオラは優勝2回、準優勝0で、格付け的には3番手グループに留まっている。
むろんヨーロッパの大会における成績は、監督を比較する一つの指標に過ぎない。時代背景やクラブが置かれた状況、成し遂げた偉業の「文脈」はすべて違うからだ。
事実、リバプールのファンの間で最も尊敬を集めているのは、シャンクリーである。2位に転落したクラブを強豪に変貌させ、かつ「フットボールは生きるか死ぬかという問題よりも、はるかに重要だ」という名言を残したシャンクリーは、クラブの精神的なアイデンティティーを確立したといえる。いかに手にしたタイトルが多くとも、リバプールの歴史の中でペイズリーが「脇役」的な立場に甘んじ続けている所以だ。