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アンチェロッティ、3度目のCL優勝へ。
彼が現役最高の監督と言える理由。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2014/05/23 12:30
過去に所属したクラブで選手とトラブルを起こしたことがほとんどなく、現在もレアルで選手たちに慕われているアンチェロッティ。
「戦術が最も重要な要素だとは思わない」
戦術の柔軟性を支えるのは、巧みなマネージメント術=人心掌握術だ。
アンチェロッティは、スーパースターを御するのがとにかくうまい。ベッカムがPSG行きを決めた背景には、ミラン時代にアンチェロッティに好印象を抱いたことが大きな要因の一つになっていた。
人心掌握術に長けた「人たらし」としてはモウリーニョも名高いが、アンチェロッティの方が懐は深い。それは両者を比較した、イブラヒモビッチのコメントからもうかがえる。彼はBBCのインタビューで次のように語っている。
「(モウリーニョの下でプレーした時には)、ターミネーターになったような気がしたよ。彼が試合前にチームトークをすると、猫からライオンに変わったような気持ちにさせてくれるんだ」
「アンチェロッティも古いタイプの監督だけど、彼は人間として素晴らしかった。アンチェロッティとのような関係を築けた監督は他にいない。彼はオレの監督であり、友人であり、ほとんど父親のような存在だった。しかも俺だけじゃなくて、選手全員とそういう関係を築いていたんだ」
戦術よりも、選手と監督の意向ありき。
アンチェロッティは「素材(選手)」の良さを引き出す能力にかけては、モウリーニョやグアルディオラを上回っている可能性もある。モウリーニョやグアルディオラは、自分が作った戦術的な枠組みの中で選手の力を発揮させていくが、アンチェロッティは枠組み自体を選手と共に作っていくからだ。
このようなアプローチを検証する上では、サイモン・クーパーが、フィナンシャルタイムズに寄稿したインタビューが役に立つ。
彼はアンチェロッティ特有の「ナイスガイ(いい人)」的なアプローチが、「選手よりも重要なシステムはない」「クラブの会長の意向よりも重要なシステムも存在しない」という、二つの「達観」に基くことを指摘。
「戦術ありきではなく、まず選手ありき」の発想は、パルマ監督時代の経験から生まれたという。バッジョを獲得できる機会があったものの、4-4-2のシステムに「10番」の選手は合わないという理由で、FWをやらせようとした結果、アンチェロッティはバッジョに逃げられてしまっている。他方「戦術ありきではなく、会長の意向ありき」という発想は、ベルルスコー二時代のミランで得たものだった。