ブラジルW杯通信BACK NUMBER
ギリシャと堅守速攻の複雑な関係。
サッカーが爆竹と陽気さに包まれる国。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2014/06/02 10:40
オリンピック・スタジアムでは爆竹も発炎筒も日常茶飯事。今年4月にも発炎筒が投げ込まれ、煙が充満してピッチが見えなくなる「事件」も。
ギリシャカップ決勝の日、地下鉄に乗った。
ナンバーウェブでギリシャ人の泣き言の話をしていても仕方がない。W杯開幕まではあと2週間だ。
ギリシャのサッカーの話をしよう。
2年前の旅で、僕はギリシャカップの決勝を見る機会に恵まれた。
対戦チームは国内最大のクラブ、オリンピアコスと、アテネの新興クラブ、アトロミトス。決勝の舞台はアテネのオリンピックスタジアムだった。
市内からオリンピックスタジアムへ向かう地下鉄は、数時間前からオリンピアコスのサポーターで溢れかえっていて、若い連中は窓ガラスや車体をバンバンガンガン叩きながら、野太い声でチームの歌を歌い続けていた。
ドアの傍に立っていた老人が、突然、雷のような声で「βσγα○×△□!」と怒鳴った。車内で大爆笑が起こり、続いて若者たちが何かを叫び返す。すると再び老人がものすごくでかい声で言い返し、またしても車内に笑い声が響き、若者たちはその後すっかり静かになる。
あとで近くにいた人に訳してもらったところによると、老人は若者たちに向かって「強いチームの応援しかできない意気地なしが!」と叫び、若者たちは「黙れクソジジイ!」と叫び返し、老人はさらに「おれがあと10歳若かったら、お前らなんか叩きのめしてやるよ!」と啖呵を切ったそうだ。
スタジアムで炎や煙が上がるのはごく当たり前。
サッカーの周りをうろつくギリシャ人は、とにかく熱い。
20年前、初めてこの国のリーグ戦、それもアテネダービーで、試合後腹を立てたパナシナイコスのサポーターが観客席に火をつけ、スタンドが文字通り炎上したときはぶったまげたが、しばらく後に、この国ではスタジアム内で炎や煙が上がるのはごく当たり前の現象であることを知った。
どんなに当局が禁止しても、ここ一番の試合ではそれがアテネだろうがテッサロニキだろうが、スタンドには何百という発煙筒がたかれ、超特大のクラッカー、爆竹がならされる。その大音響たるや、日本の夜店で売っている爆竹がカスタネットくらいにしか聞こえないようなものである。