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ギリシャと堅守速攻の複雑な関係。
サッカーが爆竹と陽気さに包まれる国。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2014/06/02 10:40
オリンピック・スタジアムでは爆竹も発炎筒も日常茶飯事。今年4月にも発炎筒が投げ込まれ、煙が充満してピッチが見えなくなる「事件」も。
2年前、経済が破綻し、デモと暴動に包まれていた。
2年前の話を少ししよう。
2012年の5月、僕は10日間ギリシャに滞在した。
その時期のギリシャは経済が破綻し、街中ではデモが頻発していた。国民のいら立ちはピークに達し、若者たちは商店の窓を壊し、国宝級の建物に火をつけていた。
いくつかの商店は略奪にあい、老人たちはどうやって生きてゆけというのか! と胸からプラカードを掲げ、通りを練り歩いていた。
サッカーの取材にはもってこいだ、笑。
なぜギリシャの経済は破綻したのか?
難しいことは僕にもわからない。ただなんとなくわかったのは、彼らは明らかに、物を買い過ぎ、遊び過ぎ、楽しみ過ぎた。
「いまギリシャ人がなにを恐れてるかわかるかい?」
2年前のその旅で、僕はある日一日かけてアテネ郊外を車で見て回った。
その日僕が見つけたサッカーのグラウンドは30あった。半分は天然芝で、もう半分は人工芝のものだった。
人工芝のグラウンドはまだできたばかりものが多く、併設する管理室や倉庫もピカピカだった。どれも素晴らしい施設だった。でも、その15の人工芝グラウンドで、僕がその日見かけた唯一のサッカー的風景は、デブデブに太った少女が夕暮れ前の人工芝の上でたわむれにボールを蹴っているシーンのみだった。
バブル期に日本でやたらと高級な資材を使って音楽ホールや文化会館が建てられたように、ギリシャでは人工芝のグラウンドが作られたようだ。サッカーを愛する若者たちのため! 行政はそう言い、業者は笑顔で人工芝を貼り続けた。
「おれも知らなかったよ。これじゃあたしかに経済は破綻するよ」
同行したギリシャ人運転手は両肩をすくめ、まるで他人ごとのように苦笑いしていた。
そして彼は、2012年5月時点のギリシャ人の心情を、こう付け加えた。
「ギリシャ人なんて、元々はそんなに豊かじゃなかったんだよ。オレたちは適当に働いて、適当に食って、週末はカフェに集まって楽しくやってた。ところが、この数年間オレたちは買いたいものを買いたいだけ買って、食いたいものを食いたいだけ食ってしまった。いまギリシャ人がなにを恐れてるかわかるかい? 失うことを恐れてるんだ。こういう怖さはこれまでなかったよ」