野球善哉BACK NUMBER
小林、大瀬良、柳田のインコース論。
数cmが分ける「危険な球」の明暗。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2014/05/20 10:40
一本足打法でヤフオクドームの最上段に打ち込む圧倒的なパワーが魅力の柳田悠岐。今年はここまで全試合に出場し、打率も3割を超えている。分厚い選手層を誇るソフトバンクでも、主力と言える存在に成長した。
フルスイングされることの恐怖感。
練習では意識、試合では無意識。
打者が一番陥りやすいのは、インコースを意識するあまり、身体が開いてしまうことだろう。そうなっては、外の球が遠くなる。踏み込んでいくことを大前提に、振りきる意識でインコースに対応するというのが、今季の柳田が見せている技なのだ。
柳田の打席を見ていて面白いのは、彼がインコースの球に対して、怯んだ様子を見せないところだ。彼は打てなかったにしても、中途半端なことはしない。常にフルスイング。これが効果てき面なのだ。
千葉ロッテ・中村武志バッテリーコーチが、こんなことを話していた。
「ソフトバンクは、打線が全体的にフルスイングしてきますよね。あれはバッテリーにとって脅威です。思い切ってインコースに行き切れないんです。さらに、ソフトバンクの打線は足がある。打つだけならコースで勝負していけるけど、走ってくるのでそれも警戒していかなくちゃいけない。その難しさはありますよね。
しかも柳田は打順が7番でしょう。これも厄介ですよね。クリーンアップだったら、大胆に攻めにいけますけど、無駄に走者は増やしたくない」
永遠の課題「強打者」と「インコース」。
小林・大瀬良の言葉にあるように、バッテリーからすると「インコースは投げないといけない」という認識で一致しているが、投げたくても投げることができない状況が、場面によって、時によってでてくるのが、このコースに投げることの難しさだ。それが小林のいう「行き時と状況」という言葉に表れていると思う。
一方、柳田は「ここを打てるようにならないと、また投げてこられる」と語り、ソフトバンクの藤井康雄打撃コーチも「インコースの厳しいコースは打てない。それはしょうがない。少し甘く入ってきたときに、ミスショットなく打てれば、状況は変わってくる」と語る。
「強打者」と「インコース」をめぐる数cmのせめぎ合いは、勝負を見るうえでの野球の妙味ともいえる。
今日からは交流戦が開幕する。ルーキー二人の言葉を使ったのは、そのためである。
ややもすると、二人は、それぞれ柳田と対戦する可能性がある。小林はどうリードするのか、また、大瀬良は、どう対峙するか。
ひそかに、楽しみにしている対決である。