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“カオス”を生み出す超攻撃的3-4-3。
湘南が挑む、目が離せないサッカー。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byShonan Bellmare
posted2014/05/09 10:40
12節終了時点で、34得点5失点。全く他を寄せ付けない強さを発揮するチームは、同時にまだまだ伸びしろのある若いチームでもある。チームとしても、選手個々としても、そのキャリアは決して今がピークではない。
「言われたことだけじゃなくて、考えなきゃ」
きっかけはシーズン前のトルコキャンプだった。
ルーマニア、デンマーク、ロシア、ノルウェー、ハンガリー、韓国らのクラブと、湘南は練習試合を消化していった。対戦相手の情報は少なく、曹監督の指示にも限界はある。チームのコンセプトにまつわる指示を与えつつも、指揮官は「選手に任せる」というスタンスを選んだ。
「たぶん彼らにとっても、いいタイミングだったと思うんです。『監督やコーチに言われることだけじゃなくて、オレらで考えなきゃいけないんだな』と気づいているタイミングだった気がして」
J2リーグの開幕後も、曹監督のスタンスはほぼ同じだ。過去2年の経験を経て、「試合に臨む僕自身の気持ちが、変わってきたところがある」と切り出す。
「ピッチで起きそうなことを、データや映像を使って選手に説明するんですが、それによるデメリットもあるなと。スカウティングとは、違うこともありますよね? ウチの選手は決してそうじゃないけれど、監督やコーチに頼るような気持ちがどこかに芽生えてしまうかもしれない。いい意味で選手に勝負の責任を負ってもらいたい、と思っているんです」
いつ、どこに、誰が出没するのか分からないカオス。
事前情報に寄り掛からず、ピッチ上で選手自身が判断を下す。即興性が加わった全員攻撃・全員守備は、対戦相手の予想を上回る局面を生み出す。いつ、どこに、誰が出没するのか分からないカオスの創出に、“新しい湘南スタイル”の神髄がある。分析不能なのだ。
身体に刻まれた記憶も、現状に満足することを拒絶する。昨シーズンのJ1で30試合に出場した菊池大介は言う。
「J1ではまったく通用しませんでした。痛いくらいに悔しさを味わって、自分のなかで何かを変えなきゃいけないと感じて、一つひとつの練習から自分と向き合って取り組めている。チーム内の競争も激しいですし、試合に勝ってもJ1を見据えた反省と課題は尽きない。そこはいつも、みんなで話し合っています」