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“カオス”を生み出す超攻撃的3-4-3。
湘南が挑む、目が離せないサッカー。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byShonan Bellmare
posted2014/05/09 10:40
12節終了時点で、34得点5失点。全く他を寄せ付けない強さを発揮するチームは、同時にまだまだ伸びしろのある若いチームでもある。チームとしても、選手個々としても、そのキャリアは決して今がピークではない。
キャプテン永木の発言に、曹監督が見せた感情。
キャプテンの永木亮太も、背番号10の思いに寄り添う。「結果はもちろんですが、内容にもこだわっているので」と試合後に繰り返す25歳は、J1の肌触りをチーム全体に伝える役目も担っている。
「いまの僕らがJ1で通用するかと言ったら、まだまだ自信を持って『はい』とは答えられない。ゲームが終わったら反省をして、J1でも通用するサッカーを作り上げていきたいんです」
彼らの声を聞いた曹監督は、「そんなことを話していましたか」と呟いた。ほとんど間を置かずに放たれたひと言には、納得の感情が含まれている。
「今年のチームは、そういうことが本当にできるようになってきている実感があります。内的モチベーションが備わっているので、外的モチベーションを与える必要がない。うまくなりたい、J1でやりたい、代表に入りたいといった気持ちを、誰もが抱いている。僕やコーチ陣が、気持ちを高める必要がないんですよ」
同一クラブを2度昇格させた監督は、これまでにひとりしかいない。1999年と2011年に、FC東京をJ1へ押し上げた大熊清監督(現大宮アルディージャ監督)だ。曹監督は史上2人目の有力な候補となりつつあるが、就任3年で2度の昇格は別格の重みがある。再び昇格の歓喜に浸ることになれば、記録には残らない快挙達成と言えそうだ。
「もしそうなったとしたら、選手たちが讃えられるべきですよ。J2へ落ちた監督を嫌がらずに、もう一度這い上がるのは相当に難しい。そういう集団として、シーズンの最後に着地できたら嬉しいですね」
いまもっとも目が離せない、湘南ベルマーレ。
面白さの価値観は、人それぞれである。誰かにとっては面白いサッカーでも、他者には退屈に映ることがあるかもしれない。
面白さよりも広く共感を得やすいのは、「目が離せないサッカー」だろう。スリリングな攻防の連続は、観戦者の身体を前のめりにする。
曹監督が頷いた。
「ハイスピードで多彩なシーンが記憶に残っていくのは、スポーツの一番いいところ。そういうサッカーをしたいと僕は思っているし、このチームの選手ならできる。そういうサッカーをする選手が勝負に逞しくなっていくことが、我々のクラブが目ざしていくところでもあると思う」
断言しよう。
2014年のJリーグで、いまもっとも目の離せないサッカーをしているのは湘南ベルマーレだ。