オフサイド・トリップBACK NUMBER
モイーズ電撃解任を徹底検証!
見えない未来とファーガソンの影。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/04/23 11:25
「選手たちは自分自身を恥じるべきだ」(ロイ・キーン)、「監督業には必ず2年の期間が与えられるべきだ」(ガリー・ネビル)。クラブのOBたちも一様に今回の早期解任には戸惑いを示している。
浮かび上がる、ファーガソンの巨大な影。
ただし今回の更迭劇では、モイーズだけがクローズアップされたわけではない。監督就任から解任に至るまでの流れを踏まえると、とある人物が影を落としていることに気づかされる。言うまでもなくファーガソンである。
「君達のこれからの仕事は、新しい監督をサポートすることだ」
昨年5月の引退セレモニーで、ファーガソンはスタジアムを埋め尽くしたサポーターに、こう語りかけている。
ファーガソンは監督を辞するに際し、今後は現場に介入せず、親善大使的な役割を全うするというスタンスを取っていた。その意味でモイーズの指名は、ユナイテッドにおける最後の仕事になるはずだった。
ところがファーガソンは、新たなシーズンが幕を開けると不可解な行動に出る。これ見よがしに、試合に顔を出すようになったのである。
たしかに世間には、ファーガソンはモイーズの姿を見届けようとしたに過ぎないのではないか、あるいは同郷の後継者を支持し続けろという無言のメッセージを、周囲に発しようとしたのだと、好意的に解釈する人もいると思う。
しかし、このような見方はナイーブな気がする。ファーガソンの臨席で最もプレッシャーを感じるのは、否応なしに比較されるモイーズ本人だからだ。ファーガソンほどの人間が、その事実に気づかなかったわけがない。
だが彼はチームが低迷し、モイーズに罵声が浴びせられる状況になっても姿を現し続けた。真意はわからない。結果、ファーガソンは今シーズンのオールド・トラッフォードにおいて、巨大なブラックボックスと化していったのである。
トロイカ体制の破綻と「権力の空白」。
似たようなことは、ファーガソンの影響力についても指摘できる。監督辞任後の彼が、ユナイテッドの上層部でどの程度の権力を保持していたかに関しては、現地記者の間でも意見が分かれる。
だが周囲の状況から判断するなら、やはりファーガソンは、意思決定に関してもある程度の影響を及ぼしていたと見るべきだろう。今シーズン、クラブの上層部では「権力の空白」が生じていたからだ。
昨シーズンまでのユナイテッドは、オーナーであるグレイザー、CEOのデイビッド・ギルが率いる役員会、そしてファーガソンの三者による、トロイカ体制で運営されていた。だがCEOのギルは、ファーガソンと同時に辞任。後任のエド・ウッドワードは実務の経験に乏しく、手腕を発揮することができないまま、トロイカ体制は破綻していったのである。
このような状況の中で、ファーガソンの持つ影響力が知らず知らずのうちに増していったとしても何ら不思議はない。そもそも合理的に監督を選ぶのではなく、自分の一存でモイーズを抜擢したのはファーガソンだった。モイーズを誰よりも声高に擁護し続けていたのもファーガソンである。モイーズの解任に関しても、彼が蚊帳の外に置かれていたとは考えにくい。