オフサイド・トリップBACK NUMBER
モイーズ電撃解任を徹底検証!
見えない未来とファーガソンの影。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/04/23 11:25
「選手たちは自分自身を恥じるべきだ」(ロイ・キーン)、「監督業には必ず2年の期間が与えられるべきだ」(ガリー・ネビル)。クラブのOBたちも一様に今回の早期解任には戸惑いを示している。
「勝つために、何をすればいいのかわからない」
とは言え、モイーズの評価が覆るわけではない。彼は選手起用に関しても、卓越していたとは言い難いからだ。
ヤヌセイのような若手は頭角を現したものの、チームの世代交代は遅々として進まなかった。ヘスス・ナバス並みのウインガーに化ける可能性があるとされたウィルフリッド・ザハなどは、なぜかカーディフにレンタルされている。
一方、移籍市場では下手な買い物を繰り返した。夏のシーズンオフにはロナウドやセスクなどを追いかけた挙げ句、フェライニに42億円もの資金を投じている。冬の移籍市場では、クラブ史上最高額となる63億円を費やしてマタを獲得。「溺れるものは藁をも掴む」典型だと失笑されたほどだった。
しかもモイーズは、フェライニやマタばかりでなく、ユナイテッドの現有兵力さえ使いこなせなかった。守備陣やボランチに綻びがあったにせよ、プレミアの4強から転がり落ちるほど戦力に乏しかったかと言えば、答えは明らかにノーである。
2月頭のストーク戦で1-2で敗れた際には、ついにモイーズの口から「勝つために、何をすればいいのかわからない」という弱音まで漏れている。
ピッチ内外で、崩壊していったチーム。
サッカーの内容は酷評され、結果も出せず、指揮官は記者会見で弱音を吐く。これではチームがまとまるはずがない。ユナイテッドの周辺からは、チームそのものが瓦解しつつあることをうかがわせる報道が相次いだ。
1月の移籍市場でフィオレンティーナにレンタル移籍したアンデルソンは、「退団を望んでいる選手はたくさんいる」と漏らしたとされる。2月にはネマニャ・ビディッチが、今シーズン限りで退団する意向であることも発表された。ユナイテッドのキャプテンが、他のクラブへの移籍をシーズン中に表明するなどというのは、ファーガソン時代には考えられなかったことである。香川真司やハビエル・エルナンデス等、モイーズに冷や飯を食わされた選手の移籍が噂されたのも、一度や二度ではない。
いかにモイーズが求心力を失っていたかは、暫定監督にライアン・ギグスが就くことからもうかがえる。通常、監督が更迭された場合はアシスタントマネジャー(助監督)が代行するのが一般的だ。にもかかわらずギグスが暫定監督を務めるのは、フィル・ネヴィルを除き、モイーズがエバートンから連れてきたコーチングスタッフ全員が総スカンを食っているからに他ならない。
サッカークラブの監督としても、また組織を束ねるリーダーとしても、モイーズには失格の烙印が押された。むろん、一個の監督としての力量そのものを云々するのは早計だろう。またガリー・ネビルが指摘したように、不振をかこった責任は当然、選手の側にもある。だが少なくとも、ユナイテッドのようなビッグクラブを率いる、ましてやファーガソンのごとき偉大な先人を継げる器でなかったことは、明らかになったと判断していいのではないか。