REVERSE ANGLEBACK NUMBER
フジキセキの「最後の息子」が1冠。
父に似ず“大人しく勝つ”しなやかさ。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2014/04/25 10:40
皐月賞を制し、ここまで6戦5勝。負けは新潟2歳ステークスの2着のみ。次の目標は6月1日の日本ダービー。4戦無敗の東京競馬場で二冠なるか?
派手だった父に似ず、「おとなしく」勝つ。
フジキセキはデビューした当時は細身だったが、どんどん体が成長し3歳春にはデビューのときと比べると30kg余りも体重が増えていた。毛色も輝くような黒(青鹿毛という)で、額に小さな星。胸板の厚いイケメンという感じだった。
それに対して息子のイスラボニータはデビューのときから体重が460kg台でほぼ安定している。顔には大きな流星(白面に近い)があり外見は父とはあまり似ていない。だが、それ以上にレースぶりがあまり父を連想させない。フジキセキはデビュー戦で2着を8馬身もちぎったり、2戦目でレコード勝ちしたり、中山の坂上だけで一気に2馬身半も差を広げたりと豪快なレース運びを見せたが、イスラボニータはぶっちぎって勝つような派手さはなく、どちらかといえばインパクトに欠ける。重賞2勝で負けたのはただ1度だけ、それも相手が怪物牝馬のハープスターというのだから断然人気になっても不思議のない戦績なのに2番人気だったのは、そうした「おとなしさ」のせいだったかもしれない。
だが、一見派手さのないレースぶりにこそ、イスラボニータのよさが潜んでいる。皐月賞は中山の多頭数のレースで4回のコーナーを回る。コーナーごとに馬が殺到してごちゃごちゃした展開になりやすい。鈴鹿サーキットの1コーナーと中山の1コーナーは無事に通過するのがむずかしい難コースだ。
皐月賞のイスラボニータは2番枠に入った。外の馬が1コーナーめがけて殺到し、前が詰まるとリズムを失う。かといって外の馬に来られないうちに前に出ようとしすぎると、自分のペースを失って消耗する。
剛直な父親の最後の息子に備わったしなやかさ。
イスラボニータに騎乗した蛯名正義もそのあたりを一番気にしていたようだ。中山の馬場はかなり悪化していたので、2番枠の馬が内に押し込められたままでいると荒れた走路を走らされる羽目になる。
「だから1、2コーナーで少し外に持ち出そうと思っていた」
それがうまくできた。運もあったが、コースを選んで乗りたい蛯名の意向をきちんと受け止め、スムーズに走ってくれるところにイスラボニータのよさがあった。
直線でも先頭に立った1番人気のトゥザワールドを外から一気にかわした。瞬発力もあったし、真ん中から外に走路を変えるときの身のこなしにも余裕があった。
「しなやかさがこの馬のよさだね」
剛直な父親の最後の息子に備わっていたしなやかさ。馬をたたえる蛯名は、父フジキセキのデビュー戦にも騎乗していた。1度だけの代打だったが、無事に新馬勝ちをエスコートした。自分の縁のある騎手の手綱も、フジキセキを満足させたことだろう。