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投手の酷使と田中将大の未来。
~ヤンキース移籍の期待と懸念~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byAP/AFLO
posted2014/01/26 08:20
7年間在籍した楽天のホーム、コボスタ宮城に一礼する田中将大。ヤンキースタジアムで、縦縞のユニフォームに袖を通した田中を見られる日が楽しみだ。
18歳から24歳で、1315イニングを投げた田中将大。
田中は、18歳から24歳(開幕時。以後の年齢もすべて開幕時のもの)までの間に1315イニングスを投げた。これは、ダルビッシュの1268回3分の1(18歳から24歳)に比べてわずかに多い。もちろん、かつての稲尾和久や杉浦忠や権藤博の酷使は、こんなレベルではなかった。稲尾などは、最初の7年間で2379イニングスも投げている。無茶でしょう、これは。
近年の大リーグではこんな使い方をされる若手はまずいない。年齢やデビュー時期が田中に近いマット・ムーアやクリス・アーチャーのスタッツ(マイナーからの通算)を見ても、前者の投球回数は838回3分の1、後者は927回3分の2にすぎない。スティーヴン・ストラスバーグ、ゲリット・コール、マイケル・ワッカといった才能豊かな若手も、年間の投球回数は180~190回前後に制限されている。
これはやはり気にかかる。
松坂大輔は西武の7年間で1216回3分の1を投げた。野茂英雄は1990年から93年(21歳から24歳)の間に937回3分の1を投げた。黒田博樹は97年から99年(22歳から24歳)の間に267回3分の2しか投げなかった。だれが長持ちしているかは、一目瞭然だ。
大リーグに眼を転じても、若い時期の酷使に耐えて生き延びた投手はめったにいない。グレッグ・マダックス(18歳から24歳までに1402回3分の1)やバート・ブライレーヴェン(19歳から24歳までに1665回3分の1)などは例外中の例外で(彼らは大リーグ通算で5000回前後を投げた)、若くして脚光を浴びたフェルナンド・ヴァレンズエラ(19歳から24歳の間に1459回3分の1)やラリー・ダーカー(17歳から24歳の間に1448回3分の1)といった投手は、どうしても竜頭蛇尾の印象を与えてしまう。逆に、若いころに出番が少なかったランディ・ジョンソン(21歳から24歳までの間に426回3分の1)やマイク・ムッシーナ(21歳から24歳までの間に682回3分の1)らは、息の長い活動を送ることが可能だった。
ダルビッシュや田中は、どんな現役生活を過ごすのか。
ダルビッシュ有や田中将大は、どちらの道を歩むのだろうか。ヤンキースが田中に7年契約を提示したのは、元エースのサバシアが32歳を境にがくりと衰えたことを念頭においているのだろうか。それともふたりは、カート・シリングやティム・ハドソンのように、安定したワークホースとして長寿の現役生活をまっとうするのだろうか。
私の期待はもちろん後者だ。「日本人投手には3年目の壁が存在する」というアメリカでの定説はぜひとも打ち破ってほしいが、それと同時に、学生野球でのエースの投げすぎもそろそろ見直してもらいたい。球数制限を設けるとか、先発投手を3枚以上そろえるとか、方法はいくらでも考え出せるはずだ。目先の勝利にこだわるあまり、逸材を早々と破壊してしまう愚行はもう見たくない。