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前田智徳の佇まいに高倉健を思う。
「不器用」を演じるという愛され方。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/12/05 10:30

前田智徳の佇まいに高倉健を思う。「不器用」を演じるという愛され方。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

ファンに、チームに愛された天才・前田智徳。1995年のアキレス腱断裂以来、度重なる故障と戦いながらも、多くの伝説を作ってきた。

前田の佇まい、生き方は、高倉健を想起させる。

 若い時分はいざ知らず、何度となく挫折を経験し、酸いも甘いも噛み分けた前田が今もゴツゴツしているとは思えない。むしろ、こちらの方が「素」なのではないか。

 前田の佇まい、生き方は、俳優の高倉健を想起させる。高倉もイメージとは異なり、普段はじつに饒舌なことで知られる。しかし、高倉も取材はほとんど受けない。そのため、親しみやすい一面は、なかなか表に出ることもない。それは高倉のファンを失望させたくないという配慮であると同時に、生涯役者として生き続けなければならない高倉の戦略であり、宿命でもある。

 そもそも高倉は自らを「不器用」だと称するが、本当に不器用な人間は、自分のことをあえて不器用などとは呼ばない。高倉は自分を「不器用」と呼べるほどには、器用だし、自分の売り方を自覚している。

語らないことこそが、ファンサービスだったのだ。

 前田がこれだけ絶大なる人気を得たのは、高倉同様、求道者然とした寡黙なイメージも大きく影響している。「孤高の天才」、あるいは「最後の侍」などと呼ばれ、ファンはそんな前田に憧憬を抱いた。

 だから、前田はあるときからファンが求める前田像をあえて演じるようになったのではないか。つまり、語らないことこそが、彼にとってのファンサービスだったのだ。

 ファンサービスとはもっとも遠いところにいるようで、ある意味、誰よりもファンのことを考えていた、そんな気がしてならない。

 記者にとっては頭の痛いところだが、前田の生き様は、必ずしも話すことだけがプロ野球選手にとってのファンサービスではないことを示している。

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