詳説日本野球研究BACK NUMBER
伝統が進化を促す明治神宮大会。
高校・大学の優勝校を徹底分析。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/11/27 10:30
11月16日、関東一戦の9回表1死二、三塁で、センター越えのタイムリー三塁打を放ち三塁に滑り込む沖縄尚学・久保柊人。明治神宮大会での同校初優勝の原動力となった。
大学の部で優勝した亜細亜大、驚きの走力。
大学の部では優勝した亜細亜大が沖縄尚学を上回る全力疾走で勝負の流れを引き寄せた。たとえば打者走者が「一塁到達5秒以上、二塁到達9秒以上、三塁到達13秒以上」かけるチンタラ走りが3試合中、1人1回しかなかった。この1回にしても満塁の場面でスクイズを敢行した長曽我部竜也が打球の行方を最後まで確認したための遅れで、チンタラ走りとは言えない。
決勝の明治大戦は「打者走者の一塁到達4.3秒未満」に代表される全力疾走が亜細亜大5人5回、明治大5人7回を数え、表面的には動きの少ない2-1の僅少差ゲームに緊迫感あふれる動的要素を盛り込んだ。
前回のコラムでは次のようなことを書いた。
「(亜細亜大は)過去4大会で11試合戦い、総得点はわずか32。1試合平均で3点に達しない計算になる。これは亜細亜大がというより、東都大学リーグ全体の傾向で、直近の1部2部入替戦、駒澤対東洋大などは1回戦が3-0、2回戦が1-0(駒澤大が連勝して1部残留)という胃がきりきりするような戦いぶりだった。
日常的にこういう守り合いをするからプロで活躍できる選手が多く輩出されるのかもしれないが、日常的な守り合いが度を越した小技の応酬に発展すれば、パフォーマンスが低下する危険性もある。全国大会を勝っていない現状を見ればそう考えるほうが理屈に合っている」
得点は少なくとも、打てる気配を発散し続けた打線。
今大会は八戸学院大戦の7-0以外は、準決勝の桐蔭横浜大戦が5-1(延長10回、9回までは1-1)、決勝の明治大戦が2-1と、パフォーマンス低下の小技の応酬に見えなくもない。
しかし、1番藤岡裕大、2番北村祥治、3番水本弦、4番中村篤人、5番嶺井博希、6番中村毅と続く上位打線は自分の間合いでボールを捉えていて、打てる気配をムンムン発散し続けていた。こういう打線を見ると物足りなさをまったく感じない。
さらに素晴らしかったのは投手陣だ。先発九里亜蓮、リリーフ山崎康晃と役割を徹底させ、九里は基本的に長イニングを見据えた緩急で打者に対峙し、山崎は一転してストレートを前面に押し出したパワーピッチングで打者を圧倒するという“チェンジアップ継投”を実践、見事に3戦して2失点と守り勝った。