野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
野球芸術界に殴り込み!
女子大生ユニットの大いなる野望。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2013/11/22 10:30
左から阿良田蓉、吉川愛美、堀岡暦。ポーズは左から宮出、福地、武田勝のモノマネである。
暦「テーマにしているのが“人と人との距離感”です」
――具体的にはどんな作品を制作されているのですか?
蓉 「私は“野球のあるくらし”をテーマにデザイン提案をしています。デザインは形を作ることだけがデザインじゃない。何かと何かの関係が変化するようなもの。例えば、テント(写真1参照)を作ったんですけど、あの中には国鉄スワローズ時代からの球団史が書いてあるんです。私の提案は、戦いに敗れた後あのテントの中に入って、戦いの悲しみを癒す。テント型にしたのは、試合後球場外に立てて『今日は負けた。アイツが打てなかった』とか悶々としたままテントに入るため。そこで薄明りの中で、低迷していた球団史を見れば、長い歴史の中でみれば、まだ全然マシ。今日の一敗でヘコんでいる場合じゃないと……そういう行為をデザインしているんです」
暦 「私は本当は油絵なんですけど、写真も撮れば映像も作る、空間芸術や版画もやっています。私自身が大きなテーマにしているのが“人と人との距離感”です。
特に野球場が持つ形であり表情というものに興味があります。球場はグラウンドとスタンドではっきりと人の種類が分かれてしまう。でも完全に分断されながらも、ホームランやファールボール。たまに客席からメガホンが投げ入れられるその瞬間に、境界線が壊れ、不安定になる。その時に生まれる特別な感情でありコミュニケーションにフォーカスを当ててみたいというのが大きなテーマになっています。例えばこれ(写真2参照)などは、カオスな感じの中にも、ちょっと寂しさが見えますよね」
愛「『野球なの?』とイロモノに観られてしまう」
――スタンドとフィールドの垣根がないながらも、寂しいですね。この影なんか特に。
暦 「この影は球審の柿木園(かきぞの)悟さんです。フィールドでは絶対的な神様かと思いきや、間違いも犯すグレーな存在という」
愛 「私は音大の4年生の時に野球の絵を描き始めたので、2人に比べれば、全然テーマとかはないんですけど、単純に野球が好きで、野球の絵を描くのが好きで、それを表現したいというだけなんです。作るものは選手や球団マスコットをモチーフにしたイラスト・アニメーションが多いですね(写真3参照)。映像で撮った場面をスローで見ていると好きな瞬間があるので、その瞬間をおさえて描いています。でも、大学院では野球に関する作品は作っていないんですよ。こういう野球好きが3人で集まれるから“野球”を出せるということがあるけど、どうしても大学院でやっている方の大半からは『野球なの?』とイロモノに観られてしまうんです」