オリンピックへの道BACK NUMBER
「ぎりぎりまで焦らないタイプ」
高橋大輔、ソチへの逆襲開始!
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2013/11/18 10:30
SPでは日本人歴代最高得点を叩き出した高橋。その復活劇にモロゾフコーチも感極まって涙を流した。
全身のあらゆるところに心が通っているかのようだ。
ショートプログラム、フリーを観て、不意にそんなことを思った。NHK杯の高橋大輔である。
圧巻としか言いようのないショートの『ヴァイオリンのためのソナチネ』。フリーの『ビートルズメドレー』でもショートに続き、4回転トウループを決めると、2度目の挑戦では3回転になるなどしたが、それでも、抜きん出た滑りを披露する。
そして高橋は、NHK杯終了の時点で、今シーズンの世界最高得点で優勝した。
「やっぱり、ぎりぎりまで来ないと自分は焦らないというか、気持ちが入らないというか、順調にはいけないタイプなんだなという感じがあります」
大会後、照れたような笑顔でこう語った。
今大会へ臨む気持ちは、ショートの圧巻の演技のあとも緩まない表情が雄弁に語っていた。4位にとどまり、不振と言われた先月のスケートアメリカから巻き返したいという決意があった。
スケートアメリカでも、存在感は発揮していたが。
実は、スケートアメリカを観たとき、それほどまでに悪いイメージは抱かなかった。
そう思えたのはなぜだったか。例えばフリーの『ビートルズメドレー』、ジャンプのミスが出ても最後まで崩れた感じはなかった。ジャンプはどうあろうと、最後まで演じ切ろうという気持ちがそこにはあり、伝わるものがあった。そしてコンパルソリーの練習に取り組んで成果としてのスケーティングのさらなるレベルアップもまた感じられた。トップだった演技構成点が象徴的だが、高橋大輔のスケーターとしての存在感が確かにあった。
もちろん、大会では4位という結果が残った。不本意だったろうし、特にジャンプには自信を失いかけてもいた。いや、むしろ自信を失いかけていたのは自分自身に対してだったかもしれない。
「正直、いろいろ怖かった部分もあったと思いますし、不安を感じ始めていたかもしれないと思います」
スケートアメリカの前の精神状態を、こう振り返っている。