オリンピックへの道BACK NUMBER
「ぎりぎりまで焦らないタイプ」
高橋大輔、ソチへの逆襲開始!
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2013/11/18 10:30
SPでは日本人歴代最高得点を叩き出した高橋。その復活劇にモロゾフコーチも感極まって涙を流した。
「痛いところをつかれ、いろんな話をして」
9月には靴をかえ、エッジもかわった。慣れるのに時間がかかる。さまざまな面に影響は出る。ジャンプもそうだ。影響は決して小さくない。先を見据えて靴をかえたと分かっていても、不安になるのは無理もない。10月5日のジャパンオープンの前には風邪をひいて体調を崩した。こうして迎えたのがスケートアメリカであった。自信を失いかけていた、あるいは自分を信じきれなくなっていたと言えるのかもしれない。
そこから約3週間を経てのNHK杯である。
「ニコライ(・モロゾフ)だけじゃなく、スタッフなどいろいろな方にいろんなことを、痛いところをつかれ、いろんな話をして、気持ちの面でオリンピックに出て自分自身がどうしたいのかということをもう1回考え直して練習をスタートしたことが(アメリカとの)違いかなと思います」
高橋は気持ちを立て直すと、圧巻の演技を見せるとともに、さらに成長したということを示してみせた。
夏場の充実感、その後の出来事による不安。よくよく考えれば、すべてが順調に推移するシーズンなど少ないのではないか。どれだけ備えていても、つまずきやトラブルは起こり得る。フィギュアスケートに限らず、どの競技の、どの選手もそうだ。
信頼と愛情を得るだけの努力を重ねてきた。
一例をあげるなら、'04年、北島康介はアテネ五輪の2カ月前に膝を故障した。一時は動揺を抱えることとなったが、最終的には平井伯昌コーチとともにそれを乗り越え、2つの金メダルを獲得した。フィギュアスケートでも、2006年のトリノ五輪で金メダルの荒川静香、2010年のバンクーバー五輪で銀メダルの浅田真央はシーズンを常に順調に過ごしていたわけではない。
オリンピックシーズンともなれば、なおさら万全を、最善を、と準備をして臨む。張りつめるからこそ、うまくいかないことがあれば、一見、周囲からは小さく思えることでも、選手にとっては大きな影響となる。
そうした出来事を乗り越えられるか、ひきずってしまうか。たぶん、周囲の存在も大きいのだろう。
高橋は、モロゾフをはじめ、チームの人々に厳しい言葉もかけられたという。きっとそこには、高橋への信頼と愛情があった。そしてそれは、信頼と愛情を得るだけの努力を、高橋自身が重ねてきたからだろう。