詳説日本野球研究BACK NUMBER
対巨人“戦意喪失”を克服した広島。
真っ向勝負の志を生んだキラ効果。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/10/29 10:30
CSでは敗れたものの、レギュラーシーズンでは3勝0敗と巨人への抵抗の先鋒となった前田健太。
キラの鮮烈デビューで取り戻した“戦う姿勢”。
こういうチーム状況のときに新外国人、キラ・カアイフエ(登録名キラ)が入団してきた。7月9日のDeNA戦、5番・一塁手としてデビューすると第3打席でセンター越えに決勝点となる逆転ホームランを放ち、翌日のDeNA戦でも第1打席で2ランホームラン、さらに翌日のDeNA戦では第2、3打席で連続ホームランをセンター、ライトに打ち分け、得点力不足に悩む広島の救世主的存在になる。
<66試合、打率.259、14本塁打、45打点>
今季の通算成績はごく普通だが、DeNA戦の鮮烈デビューがチームに勇気を与えたことは間違いない。「先発4本柱を投入して、キラ、エルドレッドを中軸とする攻撃陣で相手投手を粉砕して」という上位チームなら当たり前の“戦う姿勢”が、野村謙二郎監督をはじめとする首脳陣にようやく見られるようになったのである。
次に、キラがデビューするまでの3~6月までと、キラがデビューして以降の7~9月までの巨人戦の得失点を見てみよう。
◇3~6月→得点25、失点47 ◇7~9月→得点59、失点42
失点は大して変らないが、得点が倍以上アップしている。劇的な“キラ効果”と言っていい。キラの対巨人戦の通算打率は.222と大してよくないが、勝ちゲームでは打率.286と跳ね上がる。数字だけでない。キラは打席内での空気が他の打者とは違う。下半身をどっしり構え、上半身も余計な動きをしないで威圧感を漂わせながら立つ。こういう打者がこれまでの広島にはいなかった。
キラ効果によって岩本貴裕、松山竜平が台頭し、広島に最も不足している長打がよみがえろうとしていた。今季の折り返し点、72試合目のチーム打率.236は最終的には.248へ、チーム本塁打42は110本まで跳ね上がる。思い返せばここ数年広島はドラフトで野手、それも長打が期待できるスラッガータイプを数人、上位で指名してきた。そういうスカウト戦略も広島の打棒復活に寄与している。