野球善哉BACK NUMBER
巨人、楽天が持つ“流れ”を呼ぶ力。
日本シリーズの「この1球」を探せ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/10/25 10:32
CSの流れを決定づけた坂本勇人。日本シリーズで、この重要な役目を担うことになる選手は、巨人、楽天のどちらから現れるか。
シリーズの流れさえ変えてしまう「1球」というものがある。
場の空気を変える一投一打である。短期決戦ではたったの「1球」が、結果的に勝負を分ける「1球」になりうるのだ。
セ・パともに、ペナントレースの王者が日本シリーズ進出を決めたクライマックスシリーズ(CS)。両チームがCSを勝ち抜いた裏には、シリーズの流れを大きく変える2人の一発があった。
巨人は、第1戦の6回裏に坂本勇人が放った同点弾。
楽天は、第2戦の9回裏に一時同点となる、アンドリュー・ジョーンズが放った本塁打がそれだった。
共に、チームとしては嫌な流れの中で出た一発だった。まずCSファイナルステージ第1戦、坂本の本塁打から振り返ろう。
この一発にはただの同点弾では収まらない、CSを左右する意味があった。試合は、広島が巨人の守備のミスから2点を先制。巨人の三塁手・村田修一の技術的なミスというよりも、広島の勢いが生んだタイムリーエラーといえるものだった。そして、この2点で十分に勝ち切ってしまう怖さが広島にはあった。
広島が必勝リレーに入る直前、アクシデントが。
4回裏、巨人は無死満塁の好機を作るもロペスの犠飛で1得点のみ。6回裏、無死から村田が中前安打で出塁。追撃の狼煙を上げたかに見えたが、5番・高橋由伸が投手ゴロの併殺打。徐々に悪い流れが出来上がっていく。
6回を終えれば、7回からの広島には、横山竜士-永川勝浩-ミコライオという盤石の投手リレーがある。試合の趨勢は大きく広島側に向かおうとしていた。
そんな土壇場の6回裏、坂本に打順が回ってきた。
そして2ボールからの3球目が投じられる直前、ちょっとしたアクシデントが起きた。
広島の先発・大竹寛の靴ひもがほどけてしまったのだ。大竹はタイムを掛け、マウンド上で靴ひもを結び始めた。時間にして、数分が経過しただろうか。
変な間だった。奇妙とも言える長い中断だった。
靴ひもを結ぶにしては時間がかかりすぎていて、大竹の策略に思えたほどだった。坂本も、一度その間を嫌って、バッターボックスを外した。