野球善哉BACK NUMBER
野村謙二郎流、「選手=資産」運用術。
“総力戦”の広島が球界に残した足跡。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/10/22 13:10
広島の野村謙二郎監督は、CS敗退後「選手は本当によく頑張ってくれた。3連敗したけど、劣っているとは思わない」とコメントした。
若手の勢いと、中堅の意地を刺激する。
そんな野村監督の巧みなマネジメントを、あるスポーツ紙の番記者はこう証言する。
「堂林が骨折した時に、野村監督が面白い采配をしました。この時、小窪が堂林の代役を務めるんだろうと思ったら、一軍にあがったばかりのルーキー・上本を使ったことがありました。そしたら、上本がスタメンで結果を出した。普通だったら、これで上本がレギュラーになるのかと思うじゃないですか。そうしたら今度は小窪を使ったんです。
野村監督にその起用について尋ねると『上本が活躍して小窪も悔しかろう』って。思い返すとね、野村監督はいつもそういう起用をしているんですよ、三塁に限らず」
若手の勢いと中堅の意地を刺激しながら、チームの力を一つに結集する。
選手をふるいにかけて切り捨てるのではなく、起用できる選手へと質を高めて行く。
プロの世界というと、起用される選手は決まっていて、その中で争いを勝ち上がった選手がレギュラーになる、という構図がほとんどである。しかし、野村監督のチームマネジメントは、選手全員がチームの財産であるかのような使い方をしているのだ。
今いる選手たちの力を最大限に引き出して戦うために。
以前、あるJリーグの元幹部の方と「プロスポーツクラブの資産とは何か?」という議論をすることがあった。その幹部はこう話していた。
「チームの資産は選手とサポーター。サポーターの中には色々あって、地域、スポンサーも含めて、スタジアムに足を運んでくれる人などたくさんあります。選手が資産であるというのはつまり、いかに今いる選手の価値を高めていくことが重要か、ということなんです」
広島は、巨人のように毎年のドラフトでNo.1を指名できるわけでもなく、FAで選手を獲得できる資金もない。むしろ、FAでは選手を引き抜かれるばかりだ。だからといって、日本にはMLBのように、FAで選手を引き抜かれた代わりにドラフト上位の指名権を譲渡されるようなシステムがあるわけでもない。
広島、そして野村監督のチームマネジメントには、まさに、“選手=チームの資産”であると自覚し、その資産価値を高めて勝負していこうという意図が感じられた。
CSのファイナルステージでは、巨人の圧倒的な力の前に敗退したが、チームの力を結集して戦う広島の全員野球は、プロ野球界にひとつの足跡を残したことは間違いない。