野球善哉BACK NUMBER
野村謙二郎流、「選手=資産」運用術。
“総力戦”の広島が球界に残した足跡。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/10/22 13:10
広島の野村謙二郎監督は、CS敗退後「選手は本当によく頑張ってくれた。3連敗したけど、劣っているとは思わない」とコメントした。
今年の前田健太には、チームへの信頼がある。
もちろん、あの出来事だけが昨季の4位という結果と結び付けられるわけではないが、今になって思うと、今季は前田健が怪我を抱えながらもエースとしてチームに君臨し、ファイナルステージに臨む前にチームの一体感を口にしたことこそ、非常に意味があるものといえた。
阪神とのCS第1ステージでは、前田健は勝利を手中に収めて7回1失点でマウンドを降りた。もちろん、チームを信頼してのことだ。そして、後を受けた永川―ミコライオがきっちり役目を果たした。それは、バリントンが先発した第2戦も同じだった。
安定した先発4本柱から、中継ぎからセットアッパー、クローザーまで。広島投手陣は一枚岩で相手に向かっていた。
全員で戦えたのは、打撃陣も同じだった。
固定したスタメン8人で戦うのではなく、役割分担をはっきりした戦いが、広島の専売特許だった。丸佳浩、菊池涼介、キラ、梵英心、石原慶幸と攻守の軸は固定しながら、残りのポジションを相手投手によって使い分けた。
スタメンと控え選手の間に温度差がない。
左投手が先発したなら、右翼手は廣瀬純、三塁手は小窪哲也が先発する。
逆に右投手が先発なら、右翼手は松山竜平、三塁手は木村昇吾が務める。
ここまではどのチームも同じように使い分けるが、広島が特異だったのは、先発オーダーで状況が打開できない場合、大量の選手を使い分けて、大胆にチームを機能させてきたことだ。
たとえば先発は左でも、相手が右投手にスイッチしてくる時もある。その場合に合わせて、左右の代打、あるいは代走といった具合に、こまめに選手を起用する。野村謙二郎監督の打つ手が早く、先に先に仕掛けて行くことで、試合の主導権を制していったのだ。
だがそれが可能だったのも、交代選手たちが戦力となり得たからだった。
広島の試合前の練習で感じたことだが、スタメン外の選手たちのモチベーションは、出番を待ちわびている控えという雰囲気がせず、レギュラーと同じ高いモチベーションで練習に臨んでいた。つまり、スタメンと控え選手達とに温度差が感じられなかったのだ。