野球善哉BACK NUMBER
野村謙二郎流、「選手=資産」運用術。
“総力戦”の広島が球界に残した足跡。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/10/22 13:10
広島の野村謙二郎監督は、CS敗退後「選手は本当によく頑張ってくれた。3連敗したけど、劣っているとは思わない」とコメントした。
新鮮にさえ聞こえる言葉だった。
“全員野球”
高校野球の世界で頻繁に聞くこの言葉こそ、今季の広島の象徴だった。そして史上最大の下剋上を狙った広島の挑戦が終わった。
ペナントレース王者・巨人の前に3連敗。
こうもあっさりやられてしまうとは想像していなかったが、広島の戦いぶりから感じられたのは、個々の力というより、チーム全員の力で向かって行く姿勢だった。
CSファイナルステージに臨むエース・前田健太がこう話していた。
「(CSの)ファーストステージが良かったからというより、9月あたりからずっとですね。ベンチの雰囲気が暗くなることがないんです。点を取られて、どれだけ負けていても、そのまま終わる気がしない。逆転できるんじゃないかってベンチにいて感じるんです」
全員で戦っているという一体感。
勝負事である以上は、エースにかかる負担はもちろん大きい。しかし、前田健の口ぶりは、彼が一人で戦っているのではないことを確信しているかのようだった。
振り返ると、過去には前田健の言葉でチームが崩壊しかけた時もあった。昨年5月20日の交流戦でのことだった。
前田健太はチームの馴れ合いに苦言を呈した。
日本ハムを相手に前田健は7回を6安打無失点の好投。試合は完勝ペースで進み、前田健は、救援陣にマウンドを譲った。
ところが、このあと登板した投手が前田健の好投をフイにしてしまったのだ。9回2死から試合を逆転され、広島は敗れた。
シーズンを戦っていれば、救援陣の乱調で試合を落としてしまうことは、珍しいことではない。だが、前田健が憤ったのは試合後のロッカールームの空気だった。
単に、1試合が終わっただけという雰囲気。前田健は、苦言を呈した。
「チームとしては100%勝たなければいけない試合だった。こういう試合をしていると上位には行けない。今までにない悔しさがある」
前田健は、救援投手が打たれたくて打たれたのではないことを、誰よりも分かっていた。
だが、その馴れ合いの空気こそが危険と感じたのだった。
その後も、クローザーを任せられた若手の有望株、今村猛が大竹寛の好投をフイにするなど、チームは最悪の状況に陥った。負のスパイラルは、前田健の発言から始まったものだった。