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バスケット界が今度こそ本気に。
新リーグNBL、波乱含みの開幕!
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byKyodo News
posted2013/10/03 10:30
開幕直前に行われた会見で、勢ぞろいした各チームの選手たち。地元ファンへの訴求力を高めようとする一方で、全試合のオンライン観戦も整備するなど、試行錯誤が続く。
リクルート出身の、異色リーダーが牽引役。
さらに、NBLがこれまでと一番違うのは、実行力あるリーダーの存在だ。NBLの専務理事で、先頭に立ってリーグ立ち上げを引っ張ってきた山谷である。いわゆる“バスケ畑”の人間ではなく、リクルートでアメリカンフットボールをしていたという、バスケ界では異色の経歴を持つ。
その彼が2007年に栃木ブレックス(現リンク栃木ブレックス)の代表取締役社長に就任。資金豊富な企業チームが多いJBLにおいて、地元栃木に根差したチームを作りながら、アメリカで活動を続けていた田臥勇太を獲得するなど思い切った補強も行い、JBL昇格2年目にはリーグ優勝を果たしている。それだけの実績をあげた山谷だからこそ、企業チームからも、プロチームからも、NBLの骨組み作りを任されたわけだ。
もっとも、NBLのあり方が理想形でないことは山谷自身もよくわかっている。山谷が1年目のNBLについて「まだこのリーグは理想形ではない」「今は、高く跳ぶ前にいったんしゃがんでいる状態」と描写しているのは、そのためだ。
大きな目標とは別に、山谷は当面のNBLの目標を、各チーム、毎試合の有料観客動員数2000人をあげられるような土台をつくること、と掲げている。スポンサーや放映権収入はどれも、ファンがいてこそついてくるものであり、収益の土台を地元の観客に求めたのだ。地に足をつけて歩みながら、最終的な目標はあくまでも高く──。それが、山谷の打ち出した方針だった。
「満席の体育館で『バスケがしたいです…』」
「レッツゴー・トヨタ!」「レッツゴー・トチギ!」
会場を埋め尽くした観客の間から、両チームの応援コールが大きく響いた。
NBL12チームが全国各地で一斉に開幕を迎えた9月28日、東京の代々木第二体育館で行われたトヨタ自動車アルバルク東京対リンク栃木ブレックスの試合前の一幕だ。
この日の観客数は、山谷が掲げた目標の2000人を上回る2523人。これだけの観客を集めるのに一役買ったのが、岡田優介率いるアルバルクの選手たちだった。ツイッターやフェイスブックといったSNSでの拡散力を利用し、「満席の体育館で『バスケがしたいです……』」とファンに訴え、ポスターを貼らせてもらえる店や、開幕戦の試合チケット半券を持って行った観客に割引してくれる店を募り、観客に配る応援グッズまでも自ら用意した。
本来、運営サイドがやるべきことまで選手たちが率先してやらなくてはいけなかったことに対しては賛否両論ある。実際、プロチームと比べて企業チームはまだ運営のノウハウも足りず、宣伝まで人手がまわっていない。選手たちにとっては、自分たちで動かなければという危機感から出たSNS作戦だった。それでも、これまでコート上でのプレーに専念し、観客動員に対しては受け身だった企業チーム所属の選手たちが自ら動き、それによってほぼ満員の観客を集めたということは、リーグの意識の変化を象徴している出来事だった。