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バレンティンが超えようとする、
王貞治“55本の奇跡”を再検証。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/09/04 10:31
1964年9月23日、後楽園球場で行われた巨人対大洋の28回戦。5回裏、王貞治は大洋の佐々木吉郎投手から右越えにホームランを放ち、シーズン55本塁打の日本新記録を達成した。
バレンティン(ヤクルト)が王貞治(元巨人)などの持つシーズン55本塁打の日本記録に迫るようになってから、さまざまな記事が紙面を飾っている。いい機会なので、王とバレンティンが放ったホームランのさまざまな部分に焦点を当てながら、2人の共通点や異なる点をくらべてみようと思う(今季成績は9月1日現在のもの)。
王が55本塁打を打つまでのプロ野球記録は1963(昭和38)年に南海の野村克也が記録した52本。翌'64年、王は野村の記録を3本上回り、以来約半世紀にわたって「55本塁打」はプロ野球記録として君臨してきた('01年にT・ローズ(近鉄)、'02年にA・カブレラ(西武)が55本塁打を放ち並んでいる)。
55本超えに挑んでいるバレンティンの今季初出場は、すでに12試合が経過していた4月12日の巨人戦。オランダ代表として出場したWBC(ワールドベースボールクラシック)で発症した左内転筋肉離れが長引き、二軍での調整が続いていたのである。13試合も欠場しながらホームランを打ちまくっているバレンティンのホームランペースは50.5パーセント。2試合に1本の割合で打っていることになる。残り28試合にすべて出場すればさらに14本上積みして66本打つ計算である。
チームに貢献しないホームランなどない。
これほどバレンティンがホームランを打ってもチームは最下位を走っている。バレンティンのホームランはチームの勝利に貢献していない、という意見が出てきそうだが、バレンティンがホームランを打ったときの勝率は29勝23敗で、勝率は.558。チームの勝率.391とくらべはるかに高いことがわかる。
王も「記憶の長嶋(茂雄)」に対して「記録の王」と言われ、勝負強さでは長嶋に及ばないと言われ続けてきたが、55本のホームランを打ったときは36勝19敗、勝率.655と勝利に貢献している。これほどのホームランバッターがチームに貢献していないと考えるほうに無理があるのである。
打ったときの局面も大事だ。10対0のように大差がついたときの一発は確かに価値が半減されるが、バレンティンは52本塁打のうち36本が3点差以内の僅差で放っている。対する王も3点差以内での一発は42本と多い。ちなみに、'64年の巨人、'13年のヤクルトの成績は次の通りである。
1964年・巨人…………71勝69敗、勝率.507(1位阪神、2位大洋)
2013年・ヤクルト……45勝70敗、勝率.391(1位巨人、2位阪神)
所属するチームはともに優勝圏外の成績である。それでも打席内で集中力を切らさずに僅差の局面でホームランを量産する王とバレンティンは精神面の強さこそ称賛されるべきだろう。