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「僕は野球を楽しむなんてできない」
規律の男、宮本慎也が球界に残す物。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byNanae Suzuki

posted2013/09/02 10:30

「僕は野球を楽しむなんてできない」規律の男、宮本慎也が球界に残す物。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

「レギュラーで出られないのは引く時かなと感じた」と、引退の理由を語った宮本。34試合を残しての発表は、CS進出に望みをつなぐチームへの配慮だったという。

 ヤクルトの宮本慎也内野手が8月26日、引退を正式に発表した。

 宮本と初めてゆっくり話したのは、2003年の12月だったと記憶している。宮本を良く知るスポーツ紙のベテラン記者の紹介で、アテネ五輪日本代表のキャプテンという立場で話を聞かせてもらった。

 そのときちょっと驚いたというか、こういう男なんだなと感心した言葉がある。

「僕は巨人をちょっと羨ましいと思うことがあるんです」

 宮本がこう切り出して例に挙げたのが、「赤い靴下」の話だった。

 ある試合の日。ヤクルトの中堅選手が真っ赤な靴下を履いて球場にやってきたのを見て、それに無性に腹が立ったというのである。

「だって……男が赤い靴下ですよ! どう思います?」

 こう問われてちょっと言葉に詰まった。

 ただ、次の言葉にはこの男が抱く強いチームのあるべき姿が強烈に込められていて、妙に納得させられた。

「だって強いチームというものには、必ず規律があるじゃないですか」

赤い靴下はダメだと球団が決めなければ。

 宮本は言う。

「巨人を見ていると、やっぱりそういう規律を感じるんです。ヒゲはいけないとか、金髪はダメだとか……。傍から見たら小さなことかもしれないけど、野球に全力を注ぎ込むために、全員が守らなければならない決まりが巨人にはある。今のヤクルトはそういうのが薄れてしまって、てんでバラバラなんです。だからちょっと巨人が羨ましい」

 ヤクルトが強かった野村克也監督時代には、茶髪、ヒゲはもちろん禁止。その他にもドレスコードや暗黙の決まりがいくつもあった。それらはすべて、野球に集中し、勝つためのものだった。規律を破って少しでもチャラチャラした服装をしているのを見つかると、監督からの厳しい叱責も飛んだ。

 強かった頃のヤクルトには確かに規律があったが、それが次第に薄れてきてしまっている。宮本にとって、その象徴が「赤い靴下」だったわけである。

「だから本当は、チームが赤い靴下はダメだって決まりごとを作らなければいけないんです。そういう決まりがないから、あんな靴下を履いて球場に来る選手も出てしまう」

【次ページ】 アテネ五輪で敗れても満足感を感じた理由。

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