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<わたしの愛する山遊び> 山岳気象予報士・猪熊隆之が解説「雲海」~雲さえ読めれば手軽に見れる~
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byYuji Kamiya
posted2013/08/21 06:00
やまない12人に聞きました。山でどんな楽しみ方してますか?
高峰には登れないからと絶景を諦めるのは早計。
気象条件さえ揃えば低山でも見事な雲海に出会えるのだ!
好評発売中の雑誌Number Do『日本百名山を再発見~あの山はもっと遊べる!~』では、山登りの楽しみ方を様々な角度から切り込んでいます。
今回は山岳気象予報士・猪熊隆之さんの「雲海」解説を公開します!
眼下に雲が広がる雲海は、高い山に登れば見れるということでもないらしい。むしろ標高よりも気象条件が大きなウエイトを占めるのだという。つまり低い山でも、登山をしなくても、雲さえ読めれば雲海への遭遇率は上がるのだ。では苦労せず雲海に出会える条件って?
基本的には雲海は見れたらラッキー、というもの。なかなか出会えるものではありません。だからこそ見られると感動するんです。
いつも見上げている雲が下にある神秘さ。太陽の光で雲に陰影がつき、海の波のように見える神々しさ。そして雲上に連なる山並みの美しさを、雲が一層際立たせるんです。
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でもこの素晴らしい景色は、苦労すれば見れるというわけじゃありません。実際に私自身が一番感動した雲海に出会ったのは、ロープウェイで登った千畳敷でした。雲海の上に富士山が見え、その後ろから太陽が昇って、富士山の雪炎が太陽の光でコロナみたいに見えた。登らないでこんな絶景を見ていいのか、と罪悪感はありましたが(笑)、気象条件が揃えばそれだけ簡単に雲海に出会えるということなんです。
雲海ができるためには湿った空気と安定した大気の層が必要。
雲海ができるための大前提となるのは、湿った空気。例えば前日に雨や雪が降って濡れた地面から水蒸気が蒸発していたり、海から侵入する湿った空気などが雲海の元になります。この湿った空気が冷やされると雲ができやすくなります。
その雲が雲海となるためには安定した大気の層が必要です。
登山をしている人は分かると思いますが、普通、大気は高度が上がるほど、気温が低くなるものです。ところがそれが逆になることがあるんです。水をイメージしてもらうと分かりやすいのですが、お風呂の水を温めると上のほうが温かくて下は冷たいままということがありますよね。それは水が冷たいほど重く、温かいほど軽いからです。それが大気でも起こり、温かい空気が上に、冷たい空気が下に下がる。この状態が空気にとっては理想的で、大気が安定しているといわれるものです。
このような安定した大気の層があると、雲は上昇できず、横へと広がっていき、雲海になるのです。雲が安定して止まる地点から上を安定層と呼びます。
大気が安定するときは、2つの気象状況が考えられます。