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イギリスGPでもタイヤトラブル続出。
危機を水際で止めた各チームの英断。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byPress Association/AFLO
posted2013/07/25 10:30
レース後、使用されたピレリのタイヤを返却するフォース・インディアのスタッフ。
各チームが独自の判断で内圧を上げた。
それを可能にしたのは、トラブルが発生した直後から講じられた各チームの対応だ。それはタイヤの内圧を上げることだった。レッドブルの内情に詳しい元F1ドライバーのアレクサンダー・ブルツによれば、「ベッテルの1セット目のタイヤに小さな亀裂を発見したレッドブルは、すぐに内圧を2ポンド上げた」と言う。
現在のF1でピレリが推奨するタイヤの内圧は16ポンド(/平方インチ)。タイヤの内圧はグリップレベルと大きく関係し、マシンバランスを取るために、その前後で細かく調整される。ブルツによれば、その調整幅は「4%から8%」だという。16ポンドの8%は1.28ポンドだから、イギリスGPでレッドブルが変更した2ポンドのアップがいかに大きなものだったかは容易に理解できる。
レッドブルだけでない。マッサがトラブルに見舞われたフェラーリもすぐさま内圧を上げる指示を出した。普段はレースの推移を見守る浜島裕英(ビークル&タイヤインタラクション・デベロップメント)も、シルバーストンでは「走り終えたタイヤを観察するのに忙しかった」と語っている。
ピレリとFIAは、安全を優先した各チームの対応に救われた。
イギリスGPのレース後、セルジオ・ペレスがバーストに見舞われたマクラーレンの今井弘(プリンシパルエンジニア・ビークルエンジニアリング)は、たとえタイヤの使い方に関して、他チームよりアドバンテージを持っていたとしても、安全性を優先するためなら、そのアドバンテージを捨てて、異なるタイヤを導入すべきだと以前から主張していた。
「(最初に問題が発生した)バーレーンGPの段階で(ピレリとFIAは)何らかの対策を講ずるべきでした」(今井)
イギリスGPから、もうすぐ1カ月。タイヤトラブルは、もう過去のものになろうとし、何事もなかったように、F1は後半戦へ突入しようとしている。しかし、それを可能にしているのは、あの日、シルバーストンで、レースをしていた者たちが、目の前のアドバンテージよりも、安全性を優先するという危機感を持ってレースを続行してくれたから。その英断をピレリとFIAは忘れてはならない。