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ウルトラトレイル・マウントフジ。
サポートから見た100マイルの世界。
~第2回UTMF密着ドキュメント~ 

text by

山田洋

山田洋Hiroshi Yamada

PROFILE

photograph bySho Fujimaki

posted2013/07/18 06:00

ウルトラトレイル・マウントフジ。サポートから見た100マイルの世界。~第2回UTMF密着ドキュメント~<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

女子優勝を飾ったクリッシー・モール。自らをサポートしてくれた友人とのゴールは温かい拍手に包まれた。

スタート前に預けた荷物を受け取ることのできる場所。

 A4(富士山こどもの国)。100マイルの中間点にあたるこのエイドは、選手がスタート前に預けた荷物(ドロップバッグ)を唯一受け取れる場所だ。着替えをし、時に用意されたマッサージを受ける選手もいるなど、多くがしっかり休息を取り、食べ物を口に入れる。これから始まる後半戦に向けて平均40分ほどの時間を過ごしていく。

 仲間内で最初に到着したのは並木だった。余力を残して順調にエイドを通過していく。しかし、ひとり心配をしていた選手がいた。武田健太郎だ。

 武田にとって100マイルレースは初めて。トレラン歴も1年半と経験は浅く、未知の世界をひたすら進む。スタートから17時間弱でA4にやって来た時には、既に身体が疲労に包まれていた。

「憧れの100マイルを完走したい。奥さんがゴールで待ってくれるし……」

 心と身体が相反する中、僕は武田にいくつか技術的なアドバイスを送り、僕の目を見て頷く彼にこう続けた。

「この後、自衛隊の演習場を過ぎるとご褒美が待ってるから。A7(すばしり)からA8(山中湖きらら)までのトレイルからは富士山の絶景が見られる。とても素晴らしいハイキングコースだから、そこでは景色を楽しんで!」

アメリカ人であるクリッシーに分かりやすいよう距離をマイルに。

 このころ、原良和さんがトップでゴールテープを切った。タイムは19時間39分48秒。昨年優勝のジュリアンら並みいる強豪を抑え、見事に日本人初優勝を遂げた。

 クリッシーは、最後の難所・杓子山に挑んでいたが、その手前のA8エイドで、これまで一度も座ることのなかった彼女が、膝の痛みと疲れで椅子に腰掛けていた。その時の様子を和木は振り返る。

「クリッシーが初めて痛みを口にしたの。見るからに辛そうだったから、かわいそうになって……」

 しかし、自分自身もトレイルランナーである和木は、同情や優しさの言葉を投げ掛けることは避け、淡々とサポートに徹する。

「目標はクリッシーを優勝させること。それしか考えていなかった。ペーサーをして一緒に走った経験があったから、優しい言葉を彼女も望んでいないことは分かっていたし、『水は何リットル入れる? 何か食べる?』っていつものように接するよう心がけていたの」

 和木が気を配ったのは、コースレビューだった。クリッシーは多くの一般ランナー同様、次のエイドまでをどうやって走りきるかしか考えないタイプだという。さらに先のコース、ましてやゴールのことなど頭に入れない選手だ。

「ここから2マイルほどロード。その先にトレイルが始まる。一気に1300フィートほど登って、下ったらウォーターステーション。距離にして3.7マイルくらい」

 アメリカ人であるクリッシーに分かりやすいよう距離をマイルに、高さをフィートに換算したコース表を事前に用意していた。レース終盤になれば、些細な計算も出来ないほど選手は追い込まれる。コースをよく知る和木からの情報はクリッシーを大いに助けたことだろう。

【次ページ】 A8 山中湖きらら(121.7km地点)での出来事。

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