スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
“仲裁者”アンチェロッティと共に、
マドリーの鍵を握るジダンの存在。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAP/AFLO
posted2013/07/09 10:31
監督就任会見で穏やかな笑顔を見せるアンチェロッティ(右)とジダン。
コーチ就任、そして選手補強への影響力。
「彼はベンチに入るよ。プレーできないのは問題だがね」
就任会見の席で、アンチェロッティは冗談交じりにそう言ってジダンのアシスタントコーチ就任を明かした。
だが、元々スポーツディレクターへの就任が噂されていたジダンの仕事は、現場の指導にとどまらない。彼にはもう1つ、選手補強についてペレスに助言を与えるという、非公式ながらとても重要な役割があるからだ。
「優秀なビジネスマンだが、サッカーに関してはど素人」と揶揄されることも少なくないペレスは、現場のニーズよりもマーケティングを重視した選手補強により、歴代の監督達にとって度々障害となってきた。
ウェスレイ・スナイデルやアリエン・ロッベンの残留を求めながらペレスに聞き入れられなかったペジェグリーニもその1人。後に彼は「マドリーは監督の意見をリスペクトしない」と振り返っている。
当時、ゼネラルマネージャーとしてチーム強化の最高責任者を務めていたホルヘ・バルダーノは、助言はするが強い影響力は持たないという、ペレスのイエスマンだった。自身が強く推して就任させたペジェグリーニに十分な時間を与えられず、対立関係にあったモウリーニョの招聘を渋々認めたのは、彼に決定権がないことを象徴する出来事だったと言える。
イスコはジダンの電話でマドリー移籍を決断した。
そのバルダーノがモウリーニョに追い出され、スポーツマネージャーとしてチーム強化の全権を掌握したモウリーニョ本人もクラブを去った今、ペレスはジダンに意見を仰ぐようになった。昨季ブレイクしたラファエル・バランについて、まだ彼が18歳の無名選手だった時に獲得を進言するなど、才能を見抜く確かな目を持つジダンの意見は、ペレスの決断に対して、バルダーノのそれよりずっと大きな影響力を持ちはじめている。
それだけではない。先日入団が決まったイスコは、一度マンチェスター・シティ行きを決意していたものの、ジダンから直接電話で説得を受けてレアル・マドリー移籍を決断。近日中に合意すると見られているレアル・ソシエダのアシエル・イジャラメンディもまた、ジダンの“ラブコール”によって口説き落とされたようだ。
つまりジダンはペレスへの助言という間接的な形のみならず、選手の獲得交渉に直接かかわり、重要な役割を果たしはじめているのである。