スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
“仲裁者”アンチェロッティと共に、
マドリーの鍵を握るジダンの存在。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAP/AFLO
posted2013/07/09 10:31
監督就任会見で穏やかな笑顔を見せるアンチェロッティ(右)とジダン。
6月26日、サンティアゴ・ベルナベウ。レアル・マドリーの新監督として就任会見に臨んだカルロ・アンチェロッティは、ある記者から「早くも“エル・パシフィカドール”なんて呼ばれていますが」と問われた際、笑顔でこう答えた。
「私は選手達と良好な関係を築きたいと考える監督なだけさ。そんな風に呼ばれたことは今までなかった。でも良い言葉だね、ありがとう」
パシフィカドール。仲裁者、平和をもたらす者。
就任前からスペインメディアにつけられたその呼び名の通り、アンチェロッティは前任者ジョゼ・モウリーニョの下でチーム内外に生じた多くの傷跡を癒し、再びマドリディスモに平静をもたらす存在として期待されている。
イタリア版デルボスケと呼ばれる男。
温厚な性格で極力周囲との衝突を避け、我の強いスター選手とも対話を通して良好な関係を築きながら、現有戦力のタレントを最大限に生かした攻撃的なチームを作り上げる。
そんなスタイルによって、ミランやチェルシー、パリ・サンジェルマンなどでタレント集団を操ってきたアンチェロッティは、同様の手法で銀河系軍団と呼ばれたスター集団をまとめあげ、レアル・マドリーを2度のチャンピオンズリーグ制覇に導いたビセンテ・デルボスケとよく似た監督だと言われている。実際、彼のことを「デルボスケ・イタリアーノ(イタリア版デルボスケ)」と表現する記者もいるくらいだ。
ゆえに彼の招聘を2006年から望んできたフロレンティーノ・ペレス会長はもちろん、モウリーニョとの対立が深刻化していた国内メディア、スペクタクルに欠ける前指揮官のスタイルに不満を抱いていた多数のファン共に、現時点では総じて新監督を好意的に受け止めている。
ただ、そういった論調も開幕後に2、3試合結果が出せないだけで一変する可能性がある。例えば、2009年に同じく攻撃的なプレースタイルの確立を期待されて就任しながら、初年度を無冠で終えたことであっさりクビを切られたマヌエル・ペジェグリーニのように。
しかし今回は、ペジェグリーニのケースと異なる点が1つある。ジネディーヌ・ジダンの存在だ。