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“競馬ってそんなに儲かるの!?”
巨額馬券裁判が孕むさまざまな問題。 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byHideki Yoshihara/AFLO Dite

posted2013/06/01 08:02

“競馬ってそんなに儲かるの!?”巨額馬券裁判が孕むさまざまな問題。<Number Web> photograph by Hideki Yoshihara/AFLO Dite

今回の裁判では、競馬場やWINSの窓口ではなく、全てオンラインで馬券を購入していたこともポイントとなった。

なぜダービー直前のタイミングで行なわれたのか?

 私たちがJRAの馬券を買うと、そこから25%が控除され、うち10%が国庫に納付され、残りの15%が競馬の運営にあてられる。この男性は'07~'09年に約28億7000万円の馬券を購入しているのだから、この3年間だけで2億8700万円ほども国庫に金を納めている、と言うこともできる。

 それ以上の払戻しを得ているのだから、納めているという考え方は一般には受け入れられないかもしれないが、しかし、これも私たちファンの感覚というか言い分では、「これだけ普段から国庫におさめているんだから、たまにドカーンと儲かったから税金をよこせなんて言わないでくれよ」となる。まあ、この男性は「たまに」ではないから、これほど大きなニュースになったのだが。

 そして、驚いたというより、「冗談じゃないよ」と思ったのは、判決公判がダービーの3日前という、競馬が最も盛り上がるタイミングだったことだ。もし、検察側の主張が全面的に受け入れられるような判決がくだされたら、多くの人が「アホらしくて馬券なんて買ってらんねえよ」と思ってしまうだろう。

 それだけに、5月23日、大阪地裁(西田真基裁判長)によって言い渡された判決を聞いたときは、胸を撫でおろした。

 懲役2月、執行猶予2年(求刑・懲役1年)の有罪判決だったが、西田裁判長は、「被告人は娯楽ではなく資産運用として競馬を行っていた」と指摘。課税対象から引かれる必要経費は当たり馬券の購入費のみとする検察側の主張を退け、外れ馬券も必要経費に含まれるとの判断を示し、課税額を5億7000万円から約5200万円に大幅に減額した。

メンツは保ったかと思われた検察は控訴する方針。

 男性の場合は、「一般的な馬券購入行為とは異なり、回数、金額がきわめて多数、多額で、機械的、網羅的であり、利益を得ることに特化していた」ということで、先物取引などと同じ「雑所得」にあたると判断された。

 先の例で言うと、的中した(1)-(2)に要した100円だけでなく、外れた(1)-(3)、(1)-(4)を買った200円も経費として認められたのだ。

 男性は、所得税法違反で有罪になったものの、5億7000万円を払いつづけるという「納税地獄」からは脱することができた。

 ただし、判決では、一般的に競馬を趣味や娯楽として楽しむ場合は「原則として一時所得」とされた。3年間にわたってほぼすべてのレースの馬券をかなりの額で買っていた男性は「特殊なケース」であり、私たち普通の競馬ファンに関しては、外れ馬券の購入費は経費とはみなされないまま、ということだ。

「実質的な勝訴」と弁護人の中村和洋弁護士が述べたこの判決を受け、男性は控訴しない方針だという。それに対して検察側は、脱税額を大幅に引き下げられたとはいえ、有罪にすることができたのだから、メンツは保ったと考えてよさそうなものだが、控訴する方針のようだ。

【次ページ】 今回の裁判を、競馬サークル内での議論のきっかけに。

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