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“競馬ってそんなに儲かるの!?”
巨額馬券裁判が孕むさまざまな問題。 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byHideki Yoshihara/AFLO Dite

posted2013/06/01 08:02

“競馬ってそんなに儲かるの!?”巨額馬券裁判が孕むさまざまな問題。<Number Web> photograph by Hideki Yoshihara/AFLO Dite

今回の裁判では、競馬場やWINSの窓口ではなく、全てオンラインで馬券を購入していたこともポイントとなった。

所得の種類についての認識の食い違い。

 所得の種類について、国税当局は「一時所得」、弁護側は「雑所得」であると主張していた。簡単に言うと、「一時所得」とは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得」のことで、競馬や競輪の払戻金や懸賞金など。「雑所得」とは、公的年金や副業としての原稿料や印税、外国為替証拠金取引(FX)や先物取引の利益などを言う。

 必要経費の範囲について、前提として知っておきたいのは、国税庁が1970年の通達で、競馬配当による所得は「一時的かつ偶発的に生じたもの」として、所得税法上の「一時所得」に分類した、ということ。

 そして今回国税当局は、「必要経費」の範囲を「収入に直接要した金額」と定めた所得税法に基づき、所得から控除できるのは「当たり馬券の購入費のみ」として計算していた。

5年間、ほぼすべてのレースを買いつづけてきた男性。

 このニュースを聞いたとき、私はいくつかの点で驚いた。

 一番は、競馬でこれだけ利益を上げている人が実在する、ということだ。しかも、この男性は、自身が構築したシステムで、'05年~'09年の5年間、ほぼすべてのレースを買いつづけてきたのだという。

 私のような普通の競馬ファンの感覚というか常識では、馬券でプラスを計上するには、いかに勝負レースを絞るか、さらに、いかに買う馬券の種類を絞るかが重要になってくる。負けるときはだいたい手をひろげすぎたときなので、勝負レース以外を「ケン」(=馬券を買わずに見る)する我慢強さが求められる。

 であるから、この男性の買い方を知った瞬間、自分たちとは「違う競馬」を見て、やっている人だろうな、と思った。

「必要経費」は「当たり馬券の購入費だけ」への疑問。

 もうひとつは、国税当局ならびに検察側が「必要経費」と主張していたのが、「当たり馬券の購入費だけ」だった、ということ。

 馬連で(1)番を軸として(2)(3)(4)の3頭に100円ずつ流したとする。買い目は(1)-(2)、(1)-(3)、(1)-(4)の3通りで、計300円。マークシートに記しても、窓口の女性に口頭で言って買っても、渡される馬券は1枚で、上記の3点がその1枚に記されている。

 仮に、オッズが5倍の(1)-(2)が的中して、500円の払戻しがあったとする。

 私たちの感覚では、買いが300円、払戻しが500円なのだから、あえて経費がいくらかと言うなら300円で、儲けは200円だ。1枚の券面に3つの買い目が印刷されているのだから、その経費も3つを合算したものと考えるのが普通だろう。

 ところが、国税・検察側の主張では、経費として認められるのは当たり馬券の(1)-(2)購入に要した100円だけで、儲けは払戻しの500円から経費を引いた400円ということになる(実際は、「一時所得」には最高50万円の特別控除があるので、この例はあくまでも「考え方」ととらえていただきたい)。

 これは私たちの感覚とあまりにかけ離れすぎてはいないだろうか。しかし、競馬ファンというのは、もともと「自分は褒められた金の遣い方をしていない」と多かれ少なかれ自覚しているので、大きな声で「それはおかしい!」と言いづらいことも確かだ。

 そして、国税・検察側が主張した5億7000万円という課税額。本人さえ出る気になれば、競馬メディアから引っ張りだこになるであろうこの男性でさえ、一生かかっても払い切るのは難しいと思われる額だ。

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