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復帰を決断した勇気を讃えたい――。
ホンダ、F1第四期への期待と不安。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byKyodo News
posted2013/05/17 11:55
5月16日、ホンダ本社で行われた記者会見にて。マクラーレンのマーティン・ウィットマーシュ最高経営責任者(左)とホンダの伊東孝紳社長。
「前回の参戦において満足のいく結果を得られないまま、やむを得ず撤退に踏み切ったことは、私自身大変悔しい思いがあり、同時にファンの皆様のご期待にそえなかったことをとても残念に思っています。当時F1に携わっていた約400人の技術者はその後、環境技術を中心とした量産車の開発に加わり、特にハイブリッドや電気自動車など電動化技術の領域におきまして、短期間でホンダの競争力を大幅に向上させることに大いに貢献してくれました」
5月16日に東京・青山一丁目にあるホンダ本社で行われた2015年からのF1参戦会見で、伊東孝紳社長が、そう述べたとき、私は5年前のF1撤退会見の記憶が蘇った。
2008年12月5日。
あの日も、いまにも雨が降り出しそうな曇天で、場所も同じ青山の本社だった。
「いま撤退するのは、一種の裏切り行為ではないか?」
会見を行ったのは当時、社長を務めていた福井威夫とF1活動を仕切っていたモータースポーツ担当の大島裕志常務だった。質疑応答では厳しい質問が相次いだ。
「いま撤退するのは、一種の裏切り行為ではないか?」
「今後、現地の社員をどうするつもりなのか?」
駆けつけた約400人のメディアから次々に質問が浴びせられ、この種の会見では珍しく20問以上にもわたった。そのひとつひとつに両名は終始冷静に受け答えしていたのを覚えている。
ただ、ひとつだけ福井社長(当時)がやや顔を紅潮させて答弁した場面があった。
「モータースポーツを推進してきた自らがF1撤退を決定したことについて、どういう思いでいるのか」という質問だった。
「今でもやりたいという気持ちが非常に強い。ただし状況が許さなかったということです」