フットボール“新語録”BACK NUMBER
バイエルンの圧倒的強さの秘密は、
老将・ハインケスの変貌にあり!
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byItaru Chiba
posted2013/05/17 10:30
チャンピオンズリーグはレアル・マドリーを率いていた1998年に制したことがあるユップ・ハインケス。ドルトムントを倒し、バイエルンに12季ぶりのビッグイヤーをもたらすことができるか。
「ハインケス監督は、昨季とは別人のようになった」
フィリップ・ラーム(バイエルン・ミュンヘン)
今季のCL決勝は、ドイツの2強、バイエルン・ミュンヘン対ドルトムントになった。
ドルトムントを率いるのはユルゲン・クロップ。戦術眼に優れ、選手の気持ちを高めるのがうまい“戦術家兼モチベーター”だ。ベンチ前の派手なパフォーマンスもトレードマークで、メディア受けのいい極めて現代的な監督である。
では一方、今季限りでバイエルン監督を勇退するユップ・ハインケスは、どんな指揮官だろう?
これまで個人的には、「選手を気持ちよくプレーさせる監督」という印象を持っていた。レバークーゼンの監督時代、バイエルンからレンタルで加入したクロースを中央に置いてクリエイティブなパス能力を発揮させたように、選手の才能を引き出すのがうまいのだ。
現役時代にはボルシアMGのエースとしてクラブの黄金時代を築き、西ドイツ代表として'72年ユーロと'74年W杯で優勝を経験した。名選手だったからこそ、選手の気持ちがわかるのだろう。
少なくとも昨季までは「温厚なおじいちゃん監督」だったが……。
2年前にバイエルンの監督に就任したとき、ハインケスはこんなことを言っていた。
「私は元々怒りやすい性格だが、スペインやポルトガルで監督をしたとき、寛大であることの重要性を学んだんだ。特に公の場での選手の扱い方を注意しなければいけない。彼らは保護されるべき立場にある」
一言で言えば、「温厚なおじいちゃん監督」。スターたちを押さえつけるのではなく、のびのびとプレーさせるタイプだった。少なくとも昨季までは――。
しかし今季、突如としてハインケスが変貌する。この白髪の紳士が、驚くほど「冷徹な監督」になったのだ。
たとえばブンデスリーガのある試合の終了間際、ハインケスがジェローム・ボアテンクに途中出場を命じたときのことだ。いわゆる時間稼ぎの交代で、このドイツ代表DFとしては好ましい形の出場ではなかったのだろう。ボアテンクは不満そうにゆっくりとユニフォームに着替えた。その瞬間、ハインケスが切れた。TVカメラの前で、公然とボアテンクを叱りつけたのだ。
実は、変化の予兆は、すでに今季の開幕前からあった。