フットボール“新語録”BACK NUMBER
バイエルンの圧倒的強さの秘密は、
老将・ハインケスの変貌にあり!
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byItaru Chiba
posted2013/05/17 10:30
チャンピオンズリーグはレアル・マドリーを率いていた1998年に制したことがあるユップ・ハインケス。ドルトムントを倒し、バイエルンに12季ぶりのビッグイヤーをもたらすことができるか。
大枚をはたいて獲得したマルティネスも特別視せず。
初練習において、全選手にコレクティブな守備を要求したのである。
「選手間の距離を縮めろ! 秩序を保て! ボールの後ろに素早く全員戻れ!」
ハインケスから激しい言葉が飛んだ。
さらに選手たちに、ブンデスリーガを2連覇したドルトムントの映像を見せて、「こういう守備をしろ」と要求した。なりふり構わない鬼気迫る必死さに、選手たちは圧倒されたに違いない。
また、どんな有望なスターにも、レギュラーを保証しなかった。
昨夏、バイエルン史上最高額の4000万ユーロ(当時のレートで約40億円)でスペイン代表MFのハビエル・マルティネスが加入した。これだけの投資をしたのだから、普通なら先発させるだろう。
だが、ハインケスは平然とマルティネスをベンチに置いた。
「昨季とは競争の厳しさが違う。パフォーマンスがいい選手を使う。誰ひとり特別扱いしない。ベストの選手で、ベストのチームを作るのが自分の仕事だ」
その後、マルティネスは新しい環境に適応し、自らの力で先発の座を掴んだ。初めから特別扱いされていたら、今のような堂々としたオーラは身につかなかったかもしれない。
ラームが語る、ハインケス監督の変化とは?
今季のバイエルンのCL決勝進出決定後、キッカー誌のインタビューで、キャプテンのラームはこう語った。
「ハインケス監督は、昨季とは別人のようになった」
ラームによれば、昨季までハインケス監督は、すべての選手と平等に付き合う監督だった。しかし今季は、起用面では誰一人特別扱いしない一方で、ラーム、バスティアン・シュバインシュタイガー、マヌエル・ノイアーというリーダー格の選手と、戦術面の話し合いなど、積極的にコミュニケーションを取るようになった。
フラットな関係から、ヒエラルキーを作る関係に変えたのだ。その結果、リーダー格の選手たちが、ピッチで守備の献身性をチームメイトに要求するようになった。フランク・リベリーやアリエン・ロッベンもボールを奪われると、すぐに奪い返しに行くようになった。