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「今季はもう一度、長打にこだわる」
巨人2年目、村田修一の“原点回帰”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2013/04/15 10:30
WBCの最終メンバー候補にも選ばれていた村田。今季は、本来の長距離ヒッターとしての活躍が期待される。
「“スイング・ファースト”って言葉があるんだよ」
こう教えてくれたのは巨人の原辰徳監督だった。
「バッターはまずバットを強く振る。スイングすることが最初の仕事だってこと。バッターってスランプになったり、コンディションが落ちたり、思うような結果が出なくなってくるとバットを思い切って振れなくなってしまうけど、そういうときこそ思い切ってバットを強く振りなさいという意味だよ。僕はレジーにこの言葉を教わったんだ」
レジーとは1983年から2年間だけ巨人でプレーしたレジー・スミス外野手のことだ。
同外野手はロサンゼルス・ドジャースなどで活躍したスラッガーで、スイッチヒッターとしては当時、メジャー歴代2位となる314本塁打をマーク。巨人入りしたときはすでに30代終盤で肩やひざの故障に悩むなど肉体はボロボロだったが、メジャーリーガーとして成功してきたプライドの高さと、いざというときに見せる勝負強さで、当時の藤田元司監督をはじめ巨人ナインからも一目置かれる存在だった。
そのレジー・スミスに原監督は、バッターの原点とは、まず思い切ってバットを振ることだと教えられ、そのことを胸にバットマンとして、また指導者としてやってきたという話だった。
そして指摘したのが巨人移籍2年目を迎えた今季の村田修一内野手のバッティングについてだった。
「今年のシュウイチは、その“スイング・ファースト”の原点に戻ったと思うんだ」
昨年の5冠に村田の存在があったのは間違いないが……。
一昨年のオフにフリーエージェントで巨人に移籍してきた村田のバットは、はっきり言えば期待外れなものだった。
横浜(現DeNA)時代の2008年には46本塁打を放って2年連続ホームランキングに輝くなどした長打力は影を潜め、巨人1年目の昨シーズンはわずか12本塁打。打率も2割5分2厘と低迷し、OPS(出塁率+長打率)は.690という並の打者でしかなかったのが実情だ。
ただ、もちろん獲得が失敗だったわけではない。
なによりここ数年、ポジションが固定できなかった三塁を固定できたこと。また、守備範囲は決して広くはないが、前の打球に強く、捕れる範囲に来たボールは確実に捕球してスローイングも安定していた。守備での貢献度は高かったのだ。
原巨人にとっては、昨年の5冠という強さの一つの要因に、この村田の存在があったのは間違いのない事実だったわけである。
「でも……」
原監督がこう語っていたのは開幕前のことである。