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南アW杯の奇妙なグローバリズムと、
日本サッカーの新しい国際的立場。 

text by

西部謙司

西部謙司Kenji Nishibe

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photograph byTakuya Sugiyama(JMPA)/Getty Images

posted2010/07/15 11:30

南アW杯の奇妙なグローバリズムと、日本サッカーの新しい国際的立場。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama(JMPA)/Getty Images

 スペインとオランダの決勝は、期待したほどの試合にはならなかった。

 もちろん緊迫した雰囲気は決勝に相応しかったが、試合を観る者に対してオランダのファウルの多さは少々興ざめに映ったのではないか。テレビの解説でイビチャ・オシムさんが「ワサビ多め」と巧みな表現をしていたとおり、オランダは同じスタイルで格上のスペインに対して“スパイス”を利かせて対抗しようとしたわけだ。しかし、結局のところスペインのシャビ、イニエスタらをストップするにはオランダの2ボランチはスローだったということだ。前半にファンボメルとデヨングが早くもイエローカードをもらってしまったように、2ボランチは根本的な対策にはならなかったようだ。

 ともあれ、苦戦はしたがスペインの勝利はサッカー界にとっては良いことだと思う。テクニック、パスワーク、シンキング・スピードに秀でたチームがユーロに続いてW杯を制した。つまり、質と結果を両立できている。しかも、それがバルセロナという単独クラブの育成の成功によってもたらされた。

 1つのクラブでも世界のサッカーを変えられることを示したわけだ。

 オランダは決勝で試合を「創る」だけでなく、「壊す」ほうの能力も示した。ただ、オランダ国内では批判されるだろう。あの国民はスペイン同様に自国のスタイルにはこだわりを持っているのだから。

移民系選手で成功したドイツ。失敗したフランス。

 今大会の驚きの1つがドイツの変貌ぶりだった。

 エジル、ケディラ、ボアテンク、マリン、トロホウスキなど、「移民系の選手」の台頭が世界標準的なプレースタイルを可能にしていた。今後のドイツには大いに期待したいところだが、一方で心配もある。ここまで、そしてこれから起こるだろうドイツの成功は、かつてのフランスとよく似ているからだ。

 南アフリカで醜態のかぎりを尽くしたフランスは、チームになっていなかった。

 その原因と考えられているのが、選手の大半が都市郊外の移民系出身者になってしまったことだ。移民系の人々は仕事を求めて大都市に集まる。しかし、都市内部は家賃が高いので周辺部に住む。都市郊外の街は移民が固まってコミュニティーを形成し、それを嫌った人々が寄りつかなくなりゲットー化した。夏のバカンス時にも親が働いているので、子供たちは日が暮れるまでサッカーをして遊ぶ。もともと身体能力もあり、ボールで遊ぶ時間も長かった彼らの中から優秀な選手が育ったのは自然ともいえる。ジダンを筆頭に、アンリもリベリーも、そして大半の選手が、都市郊外出身の移民系選手である。

 移民系選手たちはアウトロー的な雰囲気をまとっている。

 彼らの多くは国歌を歌わない。

 僕はそんな“外国人”たちのフランス代表が嫌いではない。ただ、強力なリーダーを欠いたときの彼らは烏合の衆になりがちだ。そもそも国に対する自己犠牲とか忠誠心は不足しがちなのだから。

 ドイツがフランスのようになるかどうかはわからない。ただ、これまで“ゲルマン魂”とも呼ばれたようなドイツらしさは徐々に消えていくような気がしてならない。トルコ系移民(エジル)とガーナ系移民(ボアテンク)でも意思の疎通は図れるだろうが、どこまで腹を割った話し合いができるか。妙に遠慮したり、互いに敬遠したりといった雰囲気にはならないだろうか。ドイツの今後には大きな期待と少しの心配がある。

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