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<岡田ジャパンを語る> 長谷部誠 結束をもたらした主将。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoyoshi Sueishi
posted2010/07/11 08:00
デンマーク戦前に組んだ円陣はなぜ長引いたのか?
実を結んだのは第3戦のデンマーク戦だった。味方がボールを持つと、長谷部は攻撃を意識するように前がかりになっていく。前半13分、松井大輔のスルーパスに抜け出した長谷部は、右足で強烈なシュートを放った。ゴール右上にわずかに外れたものの、これが攻撃開始の狼煙(のろし)となった。
「左サイドをもっと使ってくれ」と、長谷部に要求していた大久保嘉人のいる左サイドからも攻撃が展開された。本田圭佑のゴールを皮切りに3点を奪えたのも、長谷部が攻撃のスイッチを入れたことが大きかった。彼はこの試合、躍動するようにチームトップの11.5kmを走っている。試合後は手ごたえをつかんだように笑みをのぞかせた。
「攻撃に対する意識を持ち始めて、オランダ戦、デンマーク戦と段階を踏んでよくなってきた。攻めの意識を持っていないと前に出ていけないし、厚みが出ない。今までやってきたことが少しは報われた勝利かなと思います」
チームでは若い部類に入る26歳の長谷部がキャプテンになったことで「1人1人がキャプテン」との意識はチーム全体にも及んでいく。デンマーク戦の試合前に円陣を組んだとき、長引いてしまって主審から注意を受けたことについて聞かれると、「いや、僕は(円陣で)何も言ってないんですよ。みんなが言いたいことを言っていたら、あんなに長くなってしまった」と、思わず苦笑いを浮かべた。
初戦前、実はゲームキャプテン返上の意思を伝えていた。
実はカメルーン戦の前に、長谷部は岡田監督にゲームキャプテンを返上する意思を伝えた。今こそ中澤に返すタイミングだと考えたがゆえの判断だった。しかし、指揮官や中澤からの励ましもあって続けていくことになった。だからキャプテンマークを「預かり物」だと、彼は言い続けてきたのだ。
パラグアイ戦を終えた後は、ピッチ上で仲間たちと次々に抱き合い、労をねぎらった。
「パラグアイも堅い守備をしていたので、最後の得点というところでは物足りなかった」
満足はしていない。だが、少ない人数で攻撃を仕掛けなければならないW杯仕様のこの戦術において、長谷部が周囲とコミュニケーションの輪を広げながら攻撃の意識を高めていったのは紛れもない事実だった。
長谷部はチームメイトに感謝する。
「短期決戦では、チームワークが重要になるというのを感じることができた。このチームの強みはチームワークだった。試合に出ている選手だけじゃなくて、出ていない選手たちのサポートが本当に、本当に素晴らしかった」
チームワークの中心にいたのは、自然体の若きゲームキャプテンだった。