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<岡田ジャパンを語る> 長谷部誠 結束をもたらした主将。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoyoshi Sueishi
posted2010/07/11 08:00
その背景には「預かり物のキャプテン」と謙遜しながらも、チームを戦術面でも精神面でも献身的に支え続けた、若き主将の奮闘があった。
「自分たちが全力で戦った結果がこうなんで、それは受け止めなければならないし、すべて出し切ったと思う。PKは時の運だし、誰が悪いということでもない。そこまでに決着をつけられなかった自分たちの責任」
パラグアイとの激戦を終えたばかりの長谷部誠は、まずもってPKを外してしまった駒野友一をかばった。駒野がボールをバーに当てて頭を抱えたとき、真っ先に手を差し出して出迎えたのが、黄色のキャプテンマークを左腕に巻いた長谷部だった。
「(パラグアイとの)差はあまり感じなかったし、やられている感じもなかったので悔しい。やっぱり次のステージに行って、戦いたかったというのはありますよ」
悔しさをのぞかせながらも、気丈に淡々と話すその姿からは、チームの持てる力を出し切ったという充足感も伝わってきた。
5月30日のイングランド戦で、中澤佑二に代わってゲームキャプテンを務めてから1カ月。チームがよくなるためにはどうすればいいのか、長谷部なりにずっと考えてきた。
練習では先頭を走り、ビブスを選手に配る姿もあった。ただ、心の中では「1人1人がキャプテンだ」という意識を持っていた。
「本当に僕はキャプテンらしいことをしていないんですよ。(川口)能活さんや(中澤)佑二さん、それに楢さん(楢崎正剛)ら上の人たちが引っ張ってくれるんで、僕にはプレッシャーも何もなかった。チームキャプテンに能活さんがいてくれるし、ゲームキャプテンだといっても、佑二さんから一時的に預かっているだけだと思ってますから」
初戦に勝っても、長谷部の表情は今ひとつ晴れなかった。
そう語っていた長谷部だが、決して他人任せにすることなく、率先してチームづくりに参加していく。南アに渡ってからのチームはブロックを主体とする守備に切り替わり、本田圭佑を1トップに置くシステムに移行した。
どこでボールを奪いにいくか。守備の判断にまだ迷いを感じていた長谷部は、指揮官に自分の守備をわざわざ映像でチェックしてもらい「まだ前に追いすぎている」と指摘を受けた。マンマークに近い形から相手がゾーンに入ってくるまで待つ形に変更した新しい守備に、すぐさま対応する必要があった。
「中盤の3ボランチのところで、自分のゾーンに相手が入ってきたらつぶす。そこをはっきりするように言われた。自分のなかではもう明確になりました」
守備の狙いをはっきりとさせたうえで臨んだ初戦のカメルーン戦で、長谷部は組織的な守備の中核を担い、体を張って守り続けた。勝ち点3をもぎとり、一定の満足感は得ながらも、長谷部の表情は今ひとつ晴れなかった。
「コートジボワール戦の後から(この戦術を)やり始めて突貫工事でしたけど、まずは結果が出てよかった。でも、やっぱり攻撃が課題。いかに自分でも前に出ていけるか、もうちょっとやんないとダメですね」
長谷部は以前のチームの長所である素早いパスワーク、守から攻への切り替えの速さといった連動した攻撃を捨てたくはなかった。
「自分たちのいいときのサッカーを思い出す必要があると思う」
そのためには自分自身が激しく守備をしたうえで、そこから攻撃に向かう姿勢をチームに示さなければならなかった。